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「小治癒」
エリシャの魔法で傷を回復するディアラを見て、ガルディウスは首を傾げた。
「ディアラさん、随分ダメージが多くありませんか?」
重症こそ負っていないいものの、ディアラはガルディウス以上にエリシャの小治癒を受けている。
前衛タイプのディアラが後衛タイプのガルディウスより負傷が多いことは、通常の戦闘スタイルであれば自然なことだが、このクエストにおいてディアラはあくまで補助。
メインの前衛であるバーデルがほとんどの敵を引き付ける為、その役割は基本的にエリシャの護衛のみだ。
傷を負う機会は後衛であるガルディウスと同程度しかないというのに、ホーンラビットやバーデルからの物理主体の攻撃で武闘科であるディアラがこうもダメージを負うのは不自然だ。
「あー……。言ったろ。俺もそう優秀な生徒じゃないって。」
そう言うディアラであるが、ガルディウスが見た所ディアラの身体能力は、武闘科1年としての平均は上回っているように見える。
アルティナやバーデルに比べれば総合力で下回るにしても、今回のクエストのレベルを考えれば十分な身体能力だ。
怪訝に思うガルディウスに、ディアラは苦笑する。
「言いたいことはわかる。身体能力的にこの程度の戦闘で本来ここまで傷を負うはずはないんだが……まあ、これが俺の悪癖っつーか……まあ、時に変態と言われる所以でな。」
「変態?」
性別こそ逆に見えるが、誠実そうな印象のあるディアラとは結びつかない単語に首を捻るガルディウスに、ユハスが口を開く。
「そいつは痛めつけられるのが好きなんだ。俗に言うマゾヒストって奴だな。」
「えっ……じゃあ、今までのダメージはわざとなんですか?」
「はっきり意図してというわけじゃないが、全力で挑めば9割くらいは防げたと思う。」
「それって……自分から率先してダメージを負ったとまではいかないとしても、防げるダメージをあえて防がなかったってことですよね?」
「まあ……そういうことだな。」
気まずげに肯定したディアラに、ガルディウスは怒る。
「女の子がそんな傷を残すような行為しちゃだめです!」
「……怒られるのは慣れているが、そういう怒り方をされるのは新鮮だ。」
両親にさえ時に性別を忘れられるディアラである。
思わず拍子抜けして、気の抜けた表情でガルディウスを見遣る。
しかし、そこで思いのほか激しい怒りの視線にぶつかって、あわてて弁解する。
「いや、わかってはいるんだ。ただ、痛みに対する耐性をつける特訓をしていくうちに、どんどん痛みがかえって心地よくなっちまってな……」
「痛みに対する耐性……ひょっとして、ディアラさんは守護者志望なんですか?」
前衛は、『遊撃者』と、『守護者』に大別される。
敵を攻撃したり、敵の行動を阻害することで後衛への攻撃を防ぐ『遊撃者』。
そして、敵の攻撃を自らに集中させ後衛への攻撃を防ぐ壁役となる『守護者』。
『遊撃者』は、攻撃に対しては回避を基本とするが、『守護者』は攻撃を受けて耐えるのが基本だ。
『守護者』を目指す者は、打たれ強さを鍛えると同時に、痛みそのものに対する耐性も鍛えていくのだ。




