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バーデルは気まずさに、ガルディウスから目を逸らした。
譲る気はないけれど、後ろめたさはあるからだ。
バーデルの理由を聞いた人間の反応は、概ね2通りの反応をする。
怒るか、呆れるかだ。
(どうせこいつだって同じだろ……)
今までと違うとすれば、怒っても呆れても、他に組む相手がいない落ちこぼれのガルディウスは去らないだろうということ。
(それでいいんだ。組む相手さえいれば。学武会さえ乗り切れば。)
それが単なる問題の先延ばしだということはわかっている。
ペア戦闘や複数人数での共闘の機会など、これからはもっと増えていく。
魔獣戦闘は、チーム戦闘か主流だ。ソロでの魔獣狩りなど、そうはない。
低いランクの魔獣としか戦わないのならばともかく、ランクの高い魔獣とも戦うとなれば、単独では限界があるからだ。
(次までに……次までに武器を使いこなせばいいんだ。)
たとえ友人や教師陣に無謀と言われようと。
今までだって努力はしてきた。そして未だに使いこなす目途などまったくないとしても。
それでも自分は武器にこだわりたいのだから、もうそれしか道はない。
そんな思いでいたからこそ――
「それじゃあ、仕方ないですね。」
そんなガルディウスの言葉に、目を見開いた。
仮面のせいで表情はわからないが――。
ガルディウスのどこからも、怒りも呆れも感じられなかった。
「仕方ないのかよ?」
思わず聞き返してしまったバーデルに、ガルディウスは頷く。
「それがバーデルさんのこだわりなら仕方ありません。」
あっさりとそう答えたガルディウスに、バーデルは絶句し、ユハスは肩をすくめる。
「これだけ被害をこうむっておいて、良く言えるな。」
エリシャの治療もあって今は無傷だが、ガルディウスは何度も何度もバーデルからの意図せぬ攻撃を受けている。
「確かに現状ではバーデルさんが武器を使うことにメリットなんてないですけど……長期的に見れば、バーデルさんの主張は無下にすべきではないと思いますから。」
「長期的に見ればこそ、さっさとこだわりを捨てた方がいいように思うがな。」
ガルディウスの言葉を否定するユハスの言葉の方が一般的な意見だ。
だからこそ、誰もがユハスに武器を手放すように薦めてきたし――意見を変えないバーデルを見放す者も多かった。
「ええと……これは僕が強いと思った人たちを見て思ったことなんですけど。案外他人から見ればどうでもいいようなこだわりを持つ人の方が、何のこだわりもない人よりも最終的には強くなるんじゃないかと思うんです。」
「何を根拠に?」
「こだわるだけの熱意……。人に言われても曲げない信念は、きっといつか実を結びます。」
「信念とは随分上等な表現だな。こいつのはそんな立派なもんじゃないだろ。」
「うーん……それがくだらないこだわりか、立派な信念なのかは、将来のバーデルさん次第ですけど。」
ガルディウスの言葉に、じわじわとバーデルの胸が熱を持つ。
これほど前向きな評価をされたことなど、今までになかった。
「お、俺が武器を持っても文句ないんだな?」
「はい!」
即座に迷いなく返された言葉に、ゆるゆると口角があがるのがわかる。
嬉しい――そんな感情が明確にバーデルの心に刻まれる前に――
「だって、同じこだわりを持つ身じゃないですか。同志の思いを無下にはしません。」
そう言ったガルディウスに、昂揚感に歯止めがかかる。
何故だか――すごく嫌な予感がした。
「……同志?」
「はい。バーデルさんは武器。僕は仮面。同じこだわりを持つ同志じゃないですか。」
「…………。」
仮面ごしにも実にいい笑顔をしているのがわかった。
ものすごく。ものすごく目の前の仮面野郎を殴りたくなった。
「一緒にするんじゃねえ!!俺の感動を返せーっ!!」




