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その後数回の魔獣との遭遇・戦闘を経て、ガルディウスは一つの法則を見出し、提案をした。
バーデルからガルディウスへの物理的な被害は、バーデルが武器を使っている時に限定されているのだ。
「バーデルさん。武器使うのやめませんか?」
魔力の放出だけなら、ガルディウスにとってはさして脅威にはならない。
しかし物理的な――武器や、武器ごと魔獣が飛んでくるのことへの対処はやっかいだ。バーデルの身体能力自体は高いからこそ余計に威力・スピードともにあり、その脅威は大きい。
ガルディウスの提案は、共闘においての脅威を減らすために、単純だが効果のあるものだ。
魔獣との戦闘において、魔獣の魔力の鎧を破るのに魔法や魔装などの魔力の通った攻撃が有効とされることから、魔法を使わない戦闘スタイルであるバーデルが魔装の武器を持つのは必然のように思えるが、実のところそうとも言えないのだ。
無駄に放出しても魔力切れにならない並外れた魔力値を持つバーデルは、自らの魔力で自身の体を下手な魔装以上の強度で強化できる。
防御の薄いホーンラビットとはいえ、素手で一撃で撃退していることからもそれは明らかだ。
魔力が見えるガルディウスからすれば、正直、今バーデルが使っている程度レベルの魔装ならば、素手で戦った方が強いと思えるくらいなのである。
しかし――
「い、いやだ。武器の種類を変えるくらいしてもいいけど、使うのをやめる気はないぞ。」
気まずげに眼をそらしながらも、バーデルはその提案を一蹴した。
正直、同じような提案は今までに何度もされてきたのだ。
純粋に身体能力だけならば、バーデルは武闘科1年の中では上位に入る実力者だ。
魔力の放出に対処できる者からは、バーデルが武器さえ使わなければという条件で、学武会でのパートナーをという申し出もあった。
しかし、それがバーデルにとって受けいれられる提案ではないからこそ、今の状況がある。
「ほかの武器なら、僕に攻撃が当たることはないんですか?」
「……い、今よりはな。」
「今よりは……ということは皆無ではないんでしょう?」
そんなガルディウスの言葉に、やけくそのように開き直ってバーデルは言い放つ。
「お、俺は武器を手放すつもりはないからな!」
「どうしてですか?素手でも十分に強いし、鍛えればまだまだ強くなれるじゃないですか。」
並みの魔力値では、素手ではいずれ限界を迎えるだろうが、バーデルほどの魔力値で、その魔力を武闘のみに注ぐと言うのならばまずその心配もない。
それでも武器に固執する理由があるとすれば――
「ひょっとしてアルティナさんと同じで、聖剣や宝剣クラスの魔装の使い手なんですか?」
並みの魔装ならば、バーデルの魔力値を思えば不要だ。
しかしそれが、聖剣や宝剣クラスの魔装となれば話は変わる。
世界的にも数少ない最高ランクの魔装を所有できる者は限られているが、その限られた立場にあるのならば、それを活用しないのは宝の持ち腐れでしかない。
それならば、武器を使った戦闘にこだわるのも納得だが――その可能性をあっさりユハスは否定する。
「こいつが武器にこだわるのは、そんな立派な理由じゃないさ。……教えてやれよ。」
嘲りを含んだ声音で促すユハスに、不貞腐れた様子でバーデルは告げた。
「だって、武器つかうのってカッコイイだろ!」




