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紋章術の教師――サザーラ・モンティーは、紋章術という人気の低い授業の担当ということもあって知られていないが、実は相当な変わり者の教師である。
今の時代、紋章術をメインに使う魔法使いであること自体変わり者であると言われるが、彼の場合はそれだけが原因ではない。
研究室を訪れたガルディウスの頬を両手で包み、至近距離から熱のこもった視線を向けた人物――彼こそがサザーラ・モンティーであり……
「この独創的な色彩。そして神秘的な造形。……ああっ、何度見ても美しすぎるっ!」
趣味が悪い、気味が悪いと散々な悪評を立てるガルディウスの仮面に、芸術的感動を覚える変わったセンスの持ち主だった。
同じく変わったセンスの持ち主であるガルディウスは、こくこくと嬉しそうに頷き返す。
「そ、そうですよね。この仮面、いいですよねっ!」
滅多にいない同志の言葉に、ガルディウスも興奮しているらしく仮面の隙間からわずかに除く顔色が上気してる。
人前では決して仮面を外さないガルディウスと、うっとりと至近距離から仮面を見つめるサザーラの距離は危険なほどに近い。
(な、なんなの。この異様なラブシーンもどきは……)
ただ一人一般的な感性を持つアルティナは、盛大に表情をひきつらせた。
*
仮面についての熱い語り合いを終えたサザーラは、アルティナの姿に気づくとようやく教師らしい態度で二人を迎えた。
「そうですか。ガル君とあなたが私の依頼を受けてくれると言うんですね。」
魔法科のマイナー科目の教師であるサザーラと、武闘科のアルティナは初対面である。
(名前しか知らなかったけど、こんな変わった先生だとは思わなかったわ。)
ガルディウスがいなければ、知ることもなく卒業していたことだろう。
まあ、正直に言えば知らずにいたかったところであるが。
どこか作り物めいた繊細な美貌の持ち主であるサザーラは、珍しい白銀の髪も相まって神秘的に見えるのだが――先ほどの光景を思い出すと、何だか物凄い残念な気分になる。
とはいえ、学院内に味方の少ないガルディウスにとって、支えとなりえる希少な人物であることは確認できた。
ガルディウスを弟のように大切に思っているアルティナは、礼を尽くすべき相手だと判断する。
「武闘科2年のアルティナと申します。リードリーフの採取、まかせていただけますか?」
「ええ、お願いします。ガル君と2年生のアルティナさんなら、シモンの洞窟の魔獣も問題ないでしょう。」
シモンの洞窟で出る魔獣は、新入生には厳しい難敵だ。
2年生であるアルティナなら問題はないが、足手纏いがいても平気と言えるほど余裕を持って戦えるレベルの魔獣でもない。
落ちこぼれと言われるガルディウスの実力が、2年生であるアルティナの足手纏いになるものではないと理解しているからこその発言に、アルティナは確信する。
「やはりサザーラ先生は、ガルの実力をご存じなんですね。」
そんなアルティナに、サザーラは苦笑する
「わからずに紋章術の教師はできませんよ。」