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「ああ、どうりで。」
納得したように頷くガルディウスに、バーデルは眉を寄せる。
「どうりでって、おまえ……こいつを見てあっさり納得するのかよ?」
小柄なガルディウスと並ぶと背丈も体の厚みも倍近くあるディアラである。
顔の造作は不細工でこそないが、決してそれは女性的ではなく――むしろ男前と評されるようなものだ。
容姿も、言葉づかいや、動きまでもが男性的なディアラは、本来の性別を知ってはいても疑問視したくなるほど男性的だ。
バーデルとしてはかなり不本意であるが――
「俺とこいつが並ぶと、俺の方が女と間違われるくらいなんだぞ!」
「確かに……バーデルさん小柄だし、顔だちも男臭くないですもんね。」
「あっさり納得するな!っていうかお前には言われたくないよ!」
身長差のほとんどないガルディウスに小柄だと言われるのはむっとくる。
顔だって、仮面のせいで見えないが――仮面から露出している部分を見る限りでは、ガルディウスだとて男とも女ともとれるのだ。
しかし、男として小柄すぎる――男らしさに欠けてみられることにコンプレックスを感じるのは、バーデルだけではない。
不断は気弱なガルディウスも、珍しく不満げに反論する。
「バーデルさん失礼です。僕はバーデルさんよりずっと男らしい顔だし、背だって少し高いです。」
「仮面のせいで顔なんてわかるか!大体、背が高いって精々2・3シームくらいで大差ないだろうが。それに絶対俺の方が体重あるし!俺はおまえみたいにひょろくないからな!」
「魔法使いが前衛職より体重が軽いのは当然です。それに僕、女性と間違われたことはないです。」
「そんな趣味の悪い仮面を女がするとは誰も思わないだけだろ!」
バーデルの名誉のために説明すれば、バーデル単体で女性と間違われることはない。
確かに小柄ではあるが、ガルディウスとは違い鍛え抜かれた肉体は筋肉質だし、男臭くないとはいえ決して女性的な顔立ちをしているわけではないのだ。顔の造作上雄々しさには欠けるが、鋭い眼光は少女というにはあまりに激しい。
そして何より、動きやすさを重視した体にフィットした服装を好むため――女性ではない体の線が、一目瞭然だ。
ヒートアップする小柄な二人の争いに、うんざりしたユハスが割って入る。
「ちびの底辺争いはそこまでだ。」
そう言ってユハスが振り下ろした手と連動して、二人の頭上に石版が落下する。
無詠唱の簡易魔法――攻撃としての威力はさして高いものではないが、無防備に言い争いをしていた二人には効果的であった。
石版を受け止めた痛みに、転げまわる二人を見おろしユハスは冷笑する。
「頭の悪さの次は、身長か。どちらにしろ底辺争いとは見苦しいものだな。」
そんなユハスを涙目でバーデルは睨み据える。
「ふざけんな!これ以上背が縮んだらどうするんだよ!」
バーデルの怒声に、ユハスは嗜虐的な笑みで応じる。
「そうだな……いっそ比べる必要がないほど一目瞭然になるまで、おまえだけ縮めてやろうか?」
その声と同時に振り上げた手――その先に現れた先ほどの何倍もの厚みのある石版の群れに、バーデルの顔から血の気が引く。
「ちょ……待て!待て待て!」
「先輩に対する言葉づかいもなってないな。」
そう言って実に悪魔的な笑みを浮かべたユハスに、バーデルの顔からますます血の気が引く。
「教育的指導だ。」
そんな宣言と共に振り下ろされたユハスの手。
襲いかかる石版の山に、バーデルの絶叫が轟いた。




