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ユハスの用意した同行者との対面の時。
筋骨隆々――そんな言葉にふさわしい、まだ学院一年生とは思い難いまでの見事な肉体に、ガルディウスは感嘆の吐息を漏らす――が、バーデルは露骨に顔を歪めた。
「同行者ってこいつかよ。」
「お知り合いですか?」
「まあ、同じ武闘科だしな。よく授業で一緒になるってだけだ。」
嫌そうに答えるバーデルに、ガルディウスにとっては初対面のその生徒は肩をすくめる。
「バーデルは相変わらずつれないな。」
バーデルは嫌そうにしているが、その生徒がバーデルに向ける視線は好意的だ。
「おまえがガルディウスだな?」
背の高さも体の厚みも全然違う。年齢はそう変わらないはずだが、小柄なガルディウスと並ぶとまるで大人と子供のような差だ。
そんな鍛え抜かれた巨大な肉体故の威圧感はあるが、そう言ってガルディウスに向けられる視線も柔らかい。
「はい。よろしくおねがいします。」
「俺は、ディアラだ。こちらこそよろしくな。」
思いもしなかった友好的な挨拶に、学院内において負の感情を向けられることに慣れたガルディウスは思わず目を瞬く。
学院一の異名を誇る落ちこぼれぶりと、不気味な仮面。
そして、羨望を浴びるほどの学院一の美少女――アルティナとの仲の良さ。
ガルディウスと仲良くなろうなんて生徒はまずいない。
女子生徒はまだしも、男子生徒であればそれは特に顕著だ。
誰もが面と向かって負の感情をぶつけてくるわけではないが、大抵において男子の生徒には睨まれるのが常である。
「ええと……ひょっとしてディアラさんは、僕の噂を知らないんですか?」
「いや、知ってるぞ。おまえ、有名人だからな。その仮面目立つし。」
「なのに嫌な顔しないんですね。」
意外な思いで言うガルディウスに、ディアラは肩をすくめる。
「落ちこぼれをどうこう言うほど俺だって優秀じゃないし、変わった趣味してるのはお互い様だしな。」
「変わった趣味?」
「おまえの場合はその仮面。俺の場合は……まあ、一緒に戦えばわかるさ。」
「アルティナさんと仲がいいのも気にならないんですね。」
「うーん。アルティナ先輩にはちょっと付き合ってもらいたいけど……俺の場合、仲良くしたいというのとはちょっと違うしな。」
そんなディアラの答えに、バーデルは眉を吊り上げる。
「おまえな。そういう誤解を招くような言い方はやめろよ。ぜったいそいつ勘違いしてるぞ。」
「誤解?」
首を傾けるガルディウスに、バーデルは言い放つ。
「そうは見えないだろうが、ディアラは『女』だ。」
設定メモ:
学院への入学は、14歳での入学が一番一般的ですが12歳~16歳まで認められている上、留年も多々あるので同じ一年生でも同じ年齢とは限りません。
在学できるのは20歳までで、それまでに卒業できなければ退学になります。
飛び級はなく、一学年あがるには最低でも一年かかります。




