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「おまえら馬鹿の底辺争いはそこまでにしておけ。クエストは明日からで申請済みで、俺も同行する。」
「ユハスさんもですか?」
2年生であるユハスは、学武会には参戦しない。
会ったばかりの二人に気を使って同行するなどという愁傷さとも無縁に思えるユハスの言葉に、ガルディウスは首を捻る。
「ああ。だが、俺は単なる同行者でクエストには加わる気はない。戦力にカウントするなよ。」
「じゃあ、何で来るんだよ。」
別にユハスを戦力として加えたいとは思わないが、できることなら極力一緒にいたくないと考えるバーデルにとって、ユハスの発言は好ましくないものだ。
「それを説明したところで、おまえが馬鹿すぎて理解できないから無駄だ。」
「なっ!」
「理由がどうであろうと学武会前に戦闘不能になることがないよう準備はしてやった。共闘スタイルの確立していないおまえらだけじゃ、危ないかもしれないからな。俺は戦わないが、他に同行者も用意してある。」
バーデルにとっては腹立たしい発言もあったが――むしろ二人を気遣うような発言内容に、バーデルは表情を引きつらせる。
「……妙に至れり尽くせりで不気味すぎる。」
嫌な予感に顔を歪めるバーデルだが、ユハスを信頼しているガルディウスは何の疑念もなく問いかける。
「同行者……通常クエストだから、一般のギルドの人ですか?」
「いや。学院生だ。バーデルと共闘してもあのペアなら問題ない。」
「ペアということは、一人じゃないんですね。」
「ああ。武闘科と魔法科から一人ずつ。おまえらと同じ1年生だ。」
「おい。一年で魔法科って危なくないか?」
この時期のヴェスタ平原の火気厳禁――世界中から生徒の集まる学院の中には、ガルディウスのようにそんな常識も知らない遠方から来た生徒もいるのだ。
うっかり火属性の魔法など使われてはたまらない。
「いや。魔法科といっても、神聖魔術に特化した後方支援系の魔法使いだ。今回のクエストでは基本的に回復要員だな。」
攻撃系の魔法の多い精霊魔術とは違い、精霊魔術は治癒術や支援系の魔法が中心である。
攻撃系の魔法もあるにはあるが、火属性ではないため火気厳禁のエリアでも影響は少ない。
「回復要員といっても、この平原はそれほど強力な魔獣は出ませんよね?神聖魔術ほど強力ではないですけど、簡単な治癒魔法なら僕も使えますけど。」
「いや、魔獣対策じゃなくてバーデル対策だ。」
そんなユハスの断言に、バーデルは気まずげに視線を泳がせた。
「バーデルさん対策?」
一人意図が理解できなずに首を傾けるガルディウスに、ユハスは人の悪い笑みを浮かべて頷く。
「そう。おまえがバーデルにやられた時用の回復要員だ。」
「……ええと、僕がバーデルさんにやられるんですか?」
バーデルとガルディウスは、共闘のパートナー。
決して敵ではないはずなのだが――
「大丈夫だ。腕が千切れてもすぐなら治せるレベルの回復術の使い手だからな。」
レベルの高い魔法使いであるようだが……
「あ、あんまり大丈夫に聞こえないのは……気のせいですか?」




