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「お互い納得したようだが、ぶっつけ本番で挑むにはおまえら二人ともクセがありすぎるからな。学武会までに一緒にクエストをこなすなりして、共闘のスタイルをつかんどくんだな。」
「クエストか……なんかいいのあったっけ?」
学武会までそれほど日はないため、遠方までクエストに出向く余裕はない。
「ええと……サザーラ先生の院内クエストは?」
ガルディウスが最も馴染みのあるクエストを提案すると、ユハスが即座に否定する。
「それはやめとけ。バーデルと行くのは自殺行為だ。」
「シモンの洞窟だとバーデルさんには魔獣が強すぎるってことですか?」
「そんなことねえよ!」
ガルディウスの問いを、バーデルは眉を吊り上げて否定する。
事実、一年には強敵とされるシモンの洞窟の魔獣だが、バーデル単身で挑んでも勝てない相手ではない。
共闘には問題があるバーデルであるが、身体能力は一年の中では上位にいるのだ。
「問題は魔獣の強さじゃなくて、こいつ自身だ。こいつの戦闘スタイルは周囲への被害が激しい。洞窟なんて生き埋めにされかねないからやめておけ。」
「生き埋めって……」
「こいつの戦闘スタイルは、洞窟でバーストフレアや、ダイダルウェイブを使うようなもんだからな。」
バーストフレアも、ダイダルウェイブも、精霊魔術の上級魔法である。
洞窟などの限られた空間で使うには強力すぎる――むしろそれは自殺行為につながるような、過剰魔法だ。
そんなものを実際に使われたら、魔獣は倒せても味方も全滅しかねないうえ、周囲も原型をとどめていないだろう。
「……それは迷惑ですね。」
「ユ、ユハスの表現が大げさなだけだ!」
思わず素直な感想を漏らしたガルディウスに、バーデルは声を張り上げた。
しかし、そう言うバーデルの視線は激しく泳いでいるのだから説得力に欠ける。
「……バーデルさんって、魔法は使わないんですよね?」
「ああ!俺は武闘一本だ!バーストフレアもダイダルウェイブも使わないぞ!」
「…………。」
一般的に火力で武闘を上回ると評される魔法。
その上級魔術に例えられる武闘一本の戦闘スタイルとは――
「屋外のクエストにしておけ。何なら俺が紹介してやる。」
決して人がいいとは言えないユハスのそんな親切な発言こそ、並の人間にとっては恐怖の後押し。
しかし――ガルディウスのユハスへの信頼度は、過剰なまでに大きかった。
「はい!ありがとうございます!」
信頼、尊敬。
そんなものがふんだんに含まれた輝く瞳でユハスを見つめ、仮面越しにも喜んでいることがわかる。
そして――
「やっぱりユハスさんは、いい人です。」
しみじみつぶやいたガルディウスに、
「うえっ!?」
バーデルは驚愕のまなざしを向けるのだった。




