04
「単位クエスト制度?」
「ええ。学院の生徒の大概は、卒業後騎士になって国に仕えるか、ギルドに所属するのは知ってるわね?」
「はい。アルティナさんは、騎士になるんですよね。」
「その予定よ。まあ、私の場合は家柄もあるもの。」
学院内では実力重視を名目に、家名は口にしない決まりになっているが、卒業して学院を出れば、家柄はものをいう。
学院の生徒にとって騎士は憧れの職業ではあるが、実際なれるのは本当に優れた一握りの人間か、由緒正しい家柄の者に限られるのだ。
アルティナは後者であり、また前者としての可能性も十分に持った将来有望な騎士の卵だ。
「騎士が狭き門である以上、ほとんどの卒業生が、ギルドに所属することになるわ。だから、学生のうちに疑似体験を積ませようと生まれたのが、単位クエスト制度なの。やっていることは、基本的にギルドと一緒よ。数ある依頼の中からやれそうなものを受注して、達成することで報酬が得られるの。報酬として金品ではなく単位を得られるのが、単位クエストならではの点ね。ガルはギルドの仕事の経験があるし、読み書きよりは取っつきやすいんじゃないかしら。」
「そうですね。一人でギルドの仕事をしたことはないですけど、読み書きよりは……」
正直アルティナには、ガルディウスがこの学院にいて魔法使いとして成長するとは思えない。
本人はそう思っていないが、ガルディウスは既に一流の魔法使いだとアルティナは思っている。
(ガルみたいな人のことを天才って言うんだと思うのよね。)
読み書きもろくにできない。大した魔法の知識もなければ、魔法使いとして必要とされる最低限の魔力さえも満たさない――それなのにガルディウスは、家柄上騎士との付き合いの多いアルティナから見ても『一流』の実力を持つ魔法使いなのだ。
ガルディウスの使う魔法は、一般的なものではない。
ガルディウスは確かに学院で学べるような一般的な魔術の知識を持っていないが、それを学んだところでそれをどれだけ能力向上につなげられるかは甚だ疑問である。
それでもガルディウスがこの学院で魔法を学ぼうとするのは、彼が主人と崇めるアルティナの身内の意向であり――
(単にあいつの時間稼ぎだと思うのよね。)
ガルディウスの主人もまた、魔法使いだ。
はっきりと師弟関係を結んでいたわけではないが、ガルディウスは主人の魔法を見て自分も魔法を覚えのだから――実質的には魔法の師と言えるだろう。
人格には問題があるが、魔法の腕は超一流と言っても過言ではない。
(ガルディウスの魔法の実力に誰より脅威を抱いたのが、プライドが高くて自信家のあいつよ。ガルに追いつかれるのを良しとするわけないけど、あいつが他人の目のあるところで修業するとかあり得ないし。)
アルティナの予想では、ガルディウスを修業という名目のもと学院という檻の中に閉じ込めて、今頃修業でもしているはずだ。
(ガルはあいつの言葉を信じて、自分が魔法使いとして未熟だからここに入れられたと思ってるけど。)
しかし、そう思うアルティナもガルディウスが学院で過ごすことには賛同している。
魔法使いとしての成長に学院生活が役に立つのかは疑問だが、学院にいた方がガルディウスは平穏な生活を送ることができるだろうから。
「クエストは一人じゃなくてチームでもできるから一緒にやりましょ。」
「でも、アルティナさんは単位足りてますよね?騎士になるアルティナさんにつきあわせるなんて、そんなご迷惑は……」
「迷惑なんかじゃないわよ。魔法科の生徒と武闘科の生徒がチームを組むのはよくあることだし、騎士になることが確実視されている生徒も、実戦経験を積むために単位クエストを利用してるわ。クエストで学院の外に出るのは息抜きにもなるしね。」