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二人の会話に関係なく、ゴーレムは現在の命令系に従って自動的に動き続けている。
二人の会話を遮るように、再びゴーレムが魔法を発動した。
「サンドストーム」
唸るように迫る砂嵐を、両手をわきわきと動かし迎え撃つガルディウス。
それはまるで先刻の再現であるかのようで――
しかし途中で、先刻はしなかった動作をガルディウスは見せた。
それは、「終わらせる」――その宣言を実行するための、ささやかな動き。
埃を払うかのような、虫を払うかのような――そんなささやかな手の振りだった。
ボッ
ボボボッ
無効化の壁に砂嵐が喰われるかのように消えていくのは、先刻と同じ。
けれど先刻とは違い、それはガルディウスの数十シーム前から動かぬ壁ではなかった。
目には見えない無効化の壁は、砂嵐を食らいながらゴーレム目掛けて前進していた。
ボボボッ
ズボボボボッ
砂嵐の消える様が――欠いていく様が、不可視の壁の前進を知らせる!
無効化は、無効化する力に対して距離が離れるほどに難易度を増す。
自身から数メーム離れた――ゴーレムから数十シームに迫るまでの距離に対するこれだけ素早い無効化となれば、先刻の無効化に比べ難易度は跳ね上がる。
(技術の高さは認めるが……今の状況で戦術的に優れた行為とは思えないな。)
自分の手前での無効化でも、離れた距離の無効化でもゴーレムの魔法攻撃を防ぐという効果においては差などない。
外遊魔力をメインで使う魔術だとて、内包魔力を全く使わないわけではなく――現代魔法に比べれば些細な量ではあるが難易度の高い術であればあるほど内包魔力を消費する傾向にあるのだ。
術の射程距離や効果範囲の向上は、その最たるもの――確実に内包魔力の消費量は増えているはずだ。
いくら魔力切れの気配がないとはいえ、魔法使いにとっては魔力の消費を極力抑える戦術こそが最上。
砂嵐が跡形もなく消え去り、攻防のひとまずの終焉と判断したユハスは思わず眉を寄せる。
(ただ防御のための無効化を前進させるだけに消費魔力を上げるなんて馬鹿なことをするか?)
そんなことは、外遊魔力を使う魔力値の低い魔法使いであればあり得ない選択。
ユハスの戸惑いは正鵠を射るもので――そしてそれは、ガルディウスにも当てはまる。
ただユハスは、その目的を瞬時に見破ることができなかったのだ。
「終わり、です。」
ガルディウスの宣言と共に、地響きを立てゴーレムは地に伏した。




