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ゴーレムが魔法を使うことには驚いたようだが、使うとわかっていれば――ゴーレムの魔法はそれほど脅威ではないだろう。
初級の精霊魔術のみとはいえ、魔術名のみの短縮詠唱では通常その短い魔術名でしか発動する術を察する術がないため侮れないものだが――神眼を持つガルディウスにとってはゴーレム周囲の魔力の動きを見れば、それもわかってしまうはず。
ゴーレムが魔法を使うことは、戦術の幅を広げはするが、実のところユハスをそれほど有利にする材料ではない。
けれど、それでいいのだ。
そもそも魔法攻撃に切り替えたのは、勝つためではない。
ガルディウスに、より多くの魔法を使わせる余裕を与えることこそが目的なのだ。
基本的に魔法使いは、魔法攻撃よりも物理攻撃に弱い。
物理攻撃に対しては、魔法科よりも身体を鍛えていることに重点を置く武闘科の方が頑丈で打たれ強く、対処方を心得ている。
一方で魔法科は身体的に打たれ弱い者が多く、物理攻撃への対処は不得意であるため後衛に回るのが者がほとんどだが――対魔法となれば、話は変わる。
魔法に対する守りは魔力が高い人間の方が高く、また、例え同じ魔力値の者同士でも魔法の心得のある人間の方がその威力を軽減する術を心得ているものだ。
今のゴーレムの命令系――『36』は、ターゲットから一定範囲の距離をとること、そしてフレイムアローを放つこと――ただそれだけを繰り返すもの。
(先ほどは辛くも避けた印象だったが――ネタバレしている今度はどうだ?)
ガルディウスが距離を詰めてこないため、ゴーレムは再びフレイムアローを発動する。
「フレイムアロー」
魔術名のみの短縮詠唱とともに、再びゴーレムの指先から10本の炎の矢が放たれる!
ガルディウスは今度は回避行動に移らない。炎を見据え、無言で手を動かすのみだ。
到底魔術を使っているようには見えないが――
ボッ
ボボッボッ
ガルディウスの数十シーム目の前で見えない壁に衝突したかのように、炎の矢は次々と消滅していく!
(防御結界……とは違うか?)
壁のようなものに阻まれた印象だが、結界に阻まれたにしては魔法の反発が少ない気がする。
(むしろ、相殺……なのか?)
判断材料が少なくて、断定まではできない。
だが、相殺といえば反属性をぶつけるのが常道。
判断材料が足りないなら、もっと集めればいい。
ならば――
「セット、85」
今度は、炎とは別属性の魔法の命令系だ。




