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本来の予定であれば、院内クエストを通してガルディウスが行使した魔術を分析しその実態を暴く予定であった。
だが、本人が秘匿しないというのであれば、その必要もない。
「で?秘匿しないお前の魔術とはどんなものだ?」
「僕の魔術は……」
「待ってガル。」
ガルディウスの発言を遮るアルティナに、ユハスは不快気に眉を寄せる。
「何のつもりだ?」
「元々ガルの魔術を暴くつもりだったんでしょう?だったら聞かずに暴いてみればいいのよ。」
「暴くも何も秘匿していないんだろ?」
「ええ。でも、故意に隠しているわけではないけど、ガルの魔術はただ見るだけではわからないものよ。程度の低い秘匿より難解かもしれないわ。優秀な研究家を自負するんであれば、嫌な性格だけではなく、能力もあるってところを後輩に見せてあげてもいいでしょう?」
「挑戦的だな。まるで俺がこいつの魔術を見抜けないとでも言いたげだ。」
「そこまでは思ってないけど、苦労するかも……とは思うわ。」
そんなアルティナの発言に、ユハスはゆっくりと目を細めた。
見え見えな挑発ではあったが――嫌な奴であると同時に、ユハスは負けず嫌いである。
「いいだろう。元々そのつもりだったしな。」
好戦的な笑みを浮かべるユハスに、アルティナはほくそ笑んだ。
あまり友人として推したい人選ではないが――ユハスと仲良くなることを望むガルディウスへの、ちょっとした手助けだ。
(ガルの魔術の凄さがわからないユハスじゃないけど……自力で理解した方が、興味を持つはずだもの。)
ユハスは天才を好まないが、ガルディウスは天才だ。
世間で魔力値50の魔法使いを天才と評すことはないだろうが――ガルディウスは感覚で紋章術を使いこなし、特別工夫を凝らしているわけでもない。
常人を遥かに下回る魔力値でありながら、学院に入り現代魔法を使うまで自らの魔力値に不足を感じたことのなかった非凡な魔法使いだ。
才能なき者が才能の壁を超える努力こそに価値を見出すユハスにとっては、ガルディウスは微妙な存在だろう。
けれど他にない発想という点において、ガルディウスの魔術には研究家の心を擽る要素は十分ある。
教えるよりも――それに気づかせた方が、ユハスの気を惹けるはずだ。
「では、俺のクエストの説明を始めよう。」
そうして本来ユハスが予定していた通りの院内クエストが、始まったのである。




