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魔力値の低い魔法使いは、独自の魔術を秘匿する。
魔力値の高い魔法使いに負けないためには、いかに少ない魔力で大きな力を揮えるかが大きな鍵を握るからだ。
しかし、魔獣という天敵を抱く人類にとって、その秘匿は好ましいとは言いがたい。
少ない魔力で大きな力を揮う方法が魔法使い全体に広まれば、人類全体の魔術の向上に繋がるのだから当然だ。
かといって、歴史を紐解けば秘匿を禁じればいいというものでもないことも証明されている。
魔獣との戦いの歴史の中で、秘匿を禁じた過去もある。
実際秘匿を禁じることで、一時的に魔術のレベル向上した。
けれどそれは、魔力値の少ない魔法使いの出世の道を閉ざし――魔力値の低い魔法使いたちの、少ない魔力で大きな力を揮う方法を自ら編み出そうという意志を奪う行為だった。
秘匿されていた技術が一通り公開された後、新しい技術はほとんど生み出されなくなってしまったのだ。
人と欲は切り離せない。 出世欲――それは、魔術を発展させる一つの大きな要因であると結論された。
そして、秘匿は認められた。認めた上で――暴けば良い、と。
秘匿を暴き、人類の魔術のレベルの向上も目指す者――ユハスのような研究家と呼ばれるタイプの魔法使いは、他の魔法使いの魔術もまた研究の対象だ。
独自の魔術は、時に個人では予測もつかない方法で使用される。
魔術という同じ源を使いながら、術者によって全く別の発展を遂げる。
魔力値が全てとすら言われる世界だが――ユハスはそうは思わない。
たとえば全く同じ魔力値を持った魔法使いがいたとする。
しかし、魔法使いそれぞれで得意とする魔法は違う。
炎の魔法を得意とする者。
癒しの魔法を得意とする者。
強化の魔法を得意とする者。
同じ魔力値の魔法使いで、その差はどこで生まれるのか。
学院で同じことを学ぶ魔法使い――同じ使い方に見えても、個人差が生まれるのは何故か。
全く同じ魔法使いなど存在しない。
その違いが――魔術への工夫にも表れる。
自分だけでは生み出せない技術のヒントが、そこにはあるのだ。
「お、おじゃまします。」
「私もご一緒させてもらうわよ、ユハス。」
自らの研究室に現れた仮面の新入生と付き添いのアルティナに、ユハスは眼を細める。
「さっそく来たか。余計なおまけつきだが……まあ、それも予想の範囲内だ。歓迎しよう。」
「余計なおまけで悪かったわね。」
ユハスの目的は、ガルディウスの方にあり、魔法を一切使わないアルティナには用はない。
アルティナがそうそうお目にかかれない美少女であっても、ユハスにとってはどうでもいいことだ。
「自覚があるなら、遠慮しようと思わないのか?」
嫌味もたっぷりに言い放てば、アルティナは嫌そうな顔をする。
「そのあんたの毒のある性格を知っていてガルを一人で送り出すなんてできないわ。」
「過保護だな。そんなんでこいつに俺のクエストを受けさせる気があるのか?」
「安心して。ガルをいじめるようなことは許さないけど、研究の邪魔はしないわ。」
そんなアルティナの言葉に、ユハスは口を歪める。
「ほう?俺がこいつの魔術を暴くのは構わないと?」
研究の邪魔をしないとは、そういうことだ。
魔力値50。
史上最低と言っても過言ではないような低魔力値では秘匿を暴かれれば――それは魔法使いとしての成功の道を閉ざされるも同義である。
いじめることを許さないと過保護ぶりを見せながら、研究の邪魔をしないという矛盾を指摘するユハスに、アルティナは不敵に笑う。
「構わないわ。そんなことくらい、ガルは平気だもの。」




