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今から百余年前、突如人々の前に現れた凶悪な獣――魔獣。
剣も弓も魔獣に傷を負わせることはかなわず、人々はその存在に怯えつつも為す術もなく、身を潜める以外にできることはなかった。
けれど人は、努力する生き物だ。
突如現れた魔獣という天敵に対抗するべく、試行錯誤を繰り返し、人々はやっとその手段を手に入れた。
普通の武器では、魔獣を傷つける事はかなわない。
ならば、普通の武器でなければ?
世で聖剣と呼ばれるものや、曰くつきの武器。
不思議な力を宿したそれらの武器でなら、魔獣に傷を負わせることができることに、人々は気がついた。
そして、その『不思議な力』そのものを研究することで、人々は『魔法』を得るに至った。
不思議な力を宿した装備――魔法具や、魔法を用いることで、魔獣に対抗することができるようになったのだ。
しかし、魔法具の数は限られている上、誰もが魔法を使えるわけではない。
そこで、魔獣に対抗するための人材を育てる為の学校が設立された。
世界ではじめて設立された対魔獣用人材育成学校――アルデルト学院は、授業料は国が負担し、貴賎を問うことなく門戸を開くことから、設立以来多くの若者が入学を希望し、歴史に名を残す英雄を数多輩出してきた。
スラール歴128年、春。
未来の英雄の卵である新入生1084名が、名門として名を馳せるようになったアルデルト学院の門を通って行く。
期待、不安、興奮。
新入生たちの表情は実に様々だ。
しかし……一人、表情を見てとることのできない異彩を放つ新入生がいた。
無表情とも違う。
――否。ひょっとしたら無表情なのかもしれないが、実際のところは不明だ。
何せその新入生の表情は、顔を覆い隠す不気味な仮面によって見ることができなかったのだ。
この異彩を放つ新入生こそ、後に『仮面の紋章使い』として歴史に名を残すことになるのだが……この時点での周囲からの認識は、不審人物以外の何者でもなかった。