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リードリーフの採取を終え学院へと戻る途中――シモンの洞窟の中層で、彼らは遭遇した。
「あら。ユハス。久しぶりね。」
「アルティナ?なんであんたがここに……」
アルティナとユハスには、学院に入る前からの面識があった。
特別仲が良いわけではないが付き合いは程ほどに長く、お互いのことはよく知っている。
「サザーラ先生の院内クエストよ。」
「は?なんだってあんたがこのクエストを……」
サザーラ・モンティーの院内クエストはただ一つ。リードリーフの採取のみである。
紋章術の授業を受けていない武闘一筋のアルティナには、無縁ともいえるクエストである。
「この子の手伝いみたいなものよ。」
そう言って後ろを示すアルティナに、ガルディウスの姿を見たユハスはぎょっとする。
アルティナの陰に隠れるように存在する、不気味な仮面をつけた小柄な人物――
「何だその変人は!」
「変人って失礼ね。見た目はちょっと怪しいけど、ガルはあんたよりよっぽど人としてまともよ。」
「そんな不気味な仮面をつけてまともなんて言えるか!……って仮面?そうか、おまえが噂の落ちこぼれの新入生か。」
ビシッと指を突き付けられて、ガルディウスは怯む。
「うっ……そ、そうですけど。」
「噂に違わず怪しいな!」
面と向かってきっぱりと言い切られて、ガルディウスは消沈する。
噂になっているのはガルディウス自身知っていたが、こうもはっきり目の前で言われると堪えるものがある。
噂の上でガルディウスのことは知っていたユハスだが、実際顔をあわせるのはこれが初めてだ。
新入生だけでも1084人いる学院において、授業が1コマしかない授業など存在しない。
紋章術の授業は人気がなく受講希望者が少ないため、教師はサザーラ一人しかおらず授業も他の科目に比べて極端に少ないが、それでも週に3コマは同じ授業が行われる。
同じ授業をとっていながら、ユハスやクロードがガルディウスと遭遇したことがなかったのは、たまたま別のコマの授業を受けていたためである。
「ちょっとユハス!ガルをいじめないで頂戴!」
「俺は事実を言っただけだ。大体、怪しいって言われたくないならその仮面を取ればいい話だろ。」
「仕方ないでしょ。ガルの仮面は取れないんだから!」
「は?」
訝しげな視線を向けられ、ガルディウスはおずおずと説明する。
「ええと……この仮面、呪われてるので。」
呪われた装備の中には、身に着けると外れなくなるというものがよくある。
ガルディウスの仮面もまたそうなのだ。
「呪いの仮面!見た目を裏切らずに危ない仮面だな!」
「別に危なくはないです。」
愛用の仮面を悪く言われて、気の弱いガルディウスもさすがにむっとして口を尖らせる。
それを見かねてか、今まで後ろの方から黙って様子を見ていたクロードが口をはさむ。
「すまない。連れの口が悪くて。」
「あら、クロード君じゃない。あなたユハスの知り合いだったのね。」
「先輩こそ。」
武闘科の授業でも成績で上位をおさえているクロードと、武闘科2年のアルティナもまた面識があった。
普段から会話をするような間柄でもないが、お互いにその実力を注目しあう先輩後輩の関係であり、会えばあいさつ程度は交わす仲だ。
「お詫びと言っては何だが……その仮面の呪い、俺が解こうか?」
クロードのそんな提案に、ガルディウスは慌てて首を振る。
「だ、駄目です!」
「駄目?」
呪われた仮面。
それはガルディウスが手に入れた時からすでに呪われていた。
紋章術に限定すればあらゆる魔法が使えるガルディウスにも、呪いを解こうと思えば解くことはできる。それでも、そのまま愛用しているのは――
「呪いも仮面の一部ですから。」
ガルディウスのそんな言葉に怪訝な表情を浮かべるクロードに、アルティナは苦笑する。
「ありがとう、クロード君。でも仮面はそのままでいいのよ。その気になれば、ガルだって解呪の魔法ぐらい使えるんだから。」
「では何故呪われたままにして……」
「その仮面ね、ガルにとって大切な人からの贈り物なのよ。――呪いも込みで、ね。」




