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仮面の紋章使い  作者: 9BO
Chapter2:院内クエスト
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 リードリーフには、外遊魔力を誘引する性質がある。

 その性質こそが、外遊魔力を用いる紋章術においてよく利用される『魔導水』の素材となる所以だ。

 しかしその性質は外遊魔力以外の魔力に触れることで失われてしまう。


 現代の主流である精霊魔法などの内包魔力を用いた現代魔法の使い手の間では、魔力は術者自身の内包魔力と、自然界に漂う外遊魔力の二つに大別されるが、紋章術などの外遊魔力を用いる魔術の使い手は、さらにもう一つ『中間魔力』というものを意識する。


 現代魔法の分類で言えば、中間魔力もまた、術者自身の魔力である内包魔力に分類される。

 外遊魔力を用いる魔術の使い手はそれを更に、術者の身体という器の中に完全に内包された『内包魔力』と、身体の外に漏れ出た『中間魔力』とで区別するのだ。

 人は誰しも魔力を持っており、僅かではあるがその魔力は身体からから漏れ出た状態にある。

 通常空気中――本人の周囲に僅かに漂う程度であるが、リードリーフはその僅かな中間魔力にすら影響を受けてしまう。

 中間魔力の影響を考えず採取しようとすれば、リードリーフは魔導水の素材として求められる性質を失ってしまうのだ。




「さて、採取するか。」


 そう言ってユハスは、魔力を通さない布で作られた手袋――『絶魔手袋(ウォールハンド)』を装着する。


 リードリーフの性質を自らの中間魔力で壊さないための装備である。


 魔導水の素材としてリードリーフを採取するための必需品と言われる物であるが、魔力を通さないというだけで強度的にはただの布である絶魔手袋(ウォールハンド)は、あまり一般には流通していない。


 学院の生徒の中でも持っているのは、紋章術の授業を受けている者ぐらいだろう。

 だからこそ、サザーラは紋章術を受けている生徒を主な対象としてこのクエストを出している。


 しかしこの手袋がなくても、クロードのような規格外な技術の持ち主であればリードリーフの性質を失わないよう採取は可能だ。


 魔力操作で自らの中間魔力をすべて体の中に抑えこむという荒業でもって、クロードは素手で採取を行う。

 中間魔力もまた、操作が容易い自らの魔力ではあるが――あふれ出てしまった魔力を中に押し込むという操作は、水を逆流させるようなものであり、誰しもができる技ではない。


 自己魔導(セルフリード)すら使いこなすクロードだからこそ、可能なのだ。


 そんなクロードを見て、ユハスは忌々しげに舌打ちする。


「毎度のことだが絶魔手袋(ウォールハンド)を持っているくせに使わないなんて、俺に対するあてつけだな!」


 そんなユハスに、クロードは苦笑する。


「毎度のことだが、おまえは俺のことを穿って見過ぎだ。」


 確かに、絶魔手袋(ウォールハンド)は紋章術の授業で必要とされる道具であり、クロードもまた授業用に自分の物を所持している。

 けれどそれを使わないのは、ユハスに対するあてつけのためではない。

 魔力操作をできるクロードからすれば絶魔手袋(ウォールハンド)を用いた採取は面倒が増すだけなのだ。

 何故ならば――


「リードリーフを採取すると土で汚れるだろ。洗うのが面倒なだけだ。」


 布製の絶魔手袋(ウォールハンド)で採取を行えば、必然的に土汚れがつく。

 これを綺麗に洗うのは、何気に手間なのだ。


「洗わざるを得ない俺に対するその発言は立派なあてつけだろ。2年生である俺を差し置いていい目をみてるところが気に食わない。」

「かといって絶魔手袋(ウォールハンド)を使えば使ったで文句を言うだろ、お前は。」

「当たり前だ。使う必要がないくせにわざとらしく使われれば、むかつくのが道理だ。」


 絶魔手袋(ウォールハンド)を使うことでユハスの気が済むなら使ってもいいのだが……使えばあてつけと怒られ、使わなくてもわざとらしいと怒られる。


「……俺にどうしろと言うんだ、おまえは。」


 困惑するクロードに、ユハスは鼻を鳴らして言い放つ。


「フン。どうしようとも結果は変わらない。いつか倒すその日まで、俺は地道に嫌がらせをすると決めているからな。」


 何とも堂々とした、嫌な宣言である。


「嫌な奴って言っていいか?」

「上等!魔法使いは魔力値が同じなら、性格が悪い方が優秀に決まっているからな。」


 気を悪くするどころか愉快気に笑うユハスの発言に、クロードは首を捻る。


「そうか?」

「ああ。きっと紋章術の実技でおまえより上をいったという1年も性格悪いぞ。」


 自信満々に言い放つユハスに、クロードはまたも首を捻る。


「…………そうか?」

「ああ。会うのが本当に楽しみだ。」


 本当に楽しそうに笑うユハスに、思わず問いかける。


「今の話の流れで、か?」

「当然だ。」


 きっぱりとしたユハスの肯定に、楽しみにしていたまだ見ぬ紋章術実技1位の同級生に会うのが、少し怖い気がしてきたクロードである。




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