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傍目にはただ怪しい動きを見せるだけのガルディウスだが、アルティナはその恩恵をしっかりと受け取っていた。
薄暗い洞窟内。
小型で動きが早く闇色のキラーバッドを眼でとらえるのはなかなか困難だ。
しかし、今のアルティナには、その姿がはっきりと見える。
魔獣に普通の武器が通用しないのは、その身を魔力の鎧で覆っているためだ。
そして、ガルディウスの魔法で一時的に『神眼』の能力を付与されているアルティナには、薄暗い洞窟の中――その暗さに紛れるはずのキラーバットの姿が、鮮やかに光を帯びて映る。
魔装で魔獣を斬り裂くたび光の花が散るように、魔獣の魔力の鎧が幻想的な美しさで消えていく。
こんな美しい光景を、ガルディウスは日常的に見ているのだ。
魔法で一時的に魔力を見えるようにされているアルティナとは違い、ガルディウスは生まれつきの『神眼』の持ち主だ。
だからこそ理屈もわからず見様見真似で紋章術を使えたのだろう。
一時的に神眼の力を与えられている今のアルティナには、ガルディウスの指先が描く複雑な紋章が見える。
(いったい幾つの術を使っているのやら……)
魔法の知識に乏しいアルティナにも、今ガルディウスが使っている魔法が1つや2つでないことがわかる。
ガルディウスはいつも容易くやってみせるが、神眼付与はそもそも高度な複合魔術であったはずだ。
ガルディウスの両の手の指先が描き出す幾つもの紋章。
自己魔導だけではない。
難しいと言われる紋章術を同時に複数行使できる魔法使いが、いったい何人この世に存在するだろう。
(それにしても学院印の魔装のせい?随分過保護に援護されてるわね。)
ガルディウスが知るアルティナは、九尾の刀で戦っていた。
家宝である九尾の刀と学院印の魔装では、天と地ほどの性能差がある。
神眼の持ち主であるガルディウスには、それが嫌と言うほどわかるだろうが……
(まるでその差を埋めるがごとき援護よね)
薄暗い洞窟に保護色の敵とはいえ、アルティナからすれば、キラーバットごときに神眼付与など、なくても問題ではない。
それに加えて神眼を付与されているからこそ見える、所々に作られた魔力の壁。
空中戦用にアルティナの為の踏み台として作られたであろうそれは確かに便利だが、なくても勝てる相手だ。
(まあ、気持ちよく暴れられるし利用するけどね。)
魔力の壁を蹴って空中で方向転換する。
神眼を持たない者から見れば、何もない場所で空気を蹴って方向転換しているように見えるだろう。
そして、攻撃するのはキラーバッドの最も魔力の鎧が薄い箇所だ。
個体差があるそれも、神眼を付与された今ならはっきりとわかる。
キラーバッド程度の魔力の鎧ならば、どこであろうとも斬り裂く自信がアルティナにはあるが、武器の温存を考えれば最も脆いところを攻撃するに越したことはない。
家宝の魔装ならともかく、学院印の魔装程度では気を付けないと、武器を覆う魔力のコーティングは剥がれてしまいかねないのだ。
ガルディウスは直接敵を攻撃するような魔法も使えるが、どちらかといえばこうした援護がメインの魔法を使う。
やっていることは高度だが、神眼でもなければ傍目には何もしていないように映るくらいに地味な魔法ばかりだ。
ガルディウスが目指しているものを知るアルティナからすれば当然の傾向だとは思うし、アルティナ自身はこうしたタイプの魔法使いの方が好きであるが――
(ガルの才能が評価されにくい原因の一つって、こういう魔法のセレクトのせいもあるかも……)
それでもアルティナとの共闘では、ガルディウスはこういう魔法の使い方しかしないだろう。
パートナーの求めるものを汲んで魔法を使うガルディウスと、アルティナの戦闘スタイルの組み合わせではこのスタイルが自然なのだ。
これでは目立つのは怪しい仮面と、劣等生ぶりばかり……
(ガルにもっと別の魔法をセレクトさせるようなパートナーでもできればいいんだけど。)




