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武闘科2年のアルティナは、一切魔法は使わない。
アルティナのような魔法を使わない武闘のみの人間が魔獣との戦いに用いるのが、世で聖剣や魔剣と呼ばれる武器だ。
「ここがシモンの洞窟よ。さっ、気合を入れて行きましょ。」
そう言ってアルティナが引き抜いた獲物を見て、ガルディウスは目を瞬いた。
「あれ?アルティナさん……九尾の刀は?」
九尾の刀はアルティナの家――ラシューア家の宝剣であり、強力な魔剣だ。
ガルディウスの知る限り、次期当主であるアルティナは九尾の刀を手に戦っていた。
「家に置いてあるわ。まだあれは正式に私の物ってわけじゃないもの。学生のうちはずっと家からは離れているわけだし、持ち出すわけにはいかないのよ。だからこういう学院印の魔装が、学生の間の私の武器ってわけ。」
魔獣は普通の武器では傷つけることができないが、魔力を帯びた武器『魔装』であれば別話は別だ。
学院印の魔装は、学院内の授業や学院が管理する修練場での鍛錬用に学生に貸し出されるものであり、魔装としてのランク付けで言えば、中の下といったところ。粗悪とは言わないものの、あまり良いものでもない。
ただの武器としてはなかなかの業物揃いなのだが――通っている魔力の量が少なく、魔装としてのレベルは低いのだ。
一流の武闘家を目指す者であれば、より質の魔装を手に入れようとするものであり、2年生にもなって学院印の魔装を借りる生徒は少ないのだが……魔法科――それも1年の中の落ちこぼれであるガルディウスはそれを知らない。
はじめて目にする学院印の魔装をまじまじと見つめ、ガルディウスは唸る。
「うー……あまり質のいい魔装じゃありませんね。」
そんなガルディウスに、アルティナは苦笑する。
「さすがというか、ガルは目がいいわね。」
魔力というのは、通常目に見えるものではない。
一見業物に見える学院印の魔装を、予備知識なしで質が良くないと判定するのは本来難しいことなのだ。
「まあ、この洞窟の魔獣ならこの魔装で十分よ。ましてや今日はガルが一緒だもの。」
そう言って肩を叩かれたガルディウスは、ふるふると拳を握りしめた。
「が、頑張ります。」
「ふふっ。そんなに力まなくても、いつも通りでいいのよ。」
微笑んでいうアルティナに少し力が抜けたのか、ガルディウスはゆっくりと頷く。
「アルティナさんとの共闘は、戦いやすくて好きです。」
「私もガルとの共闘は大好きよ。」
魔獣との戦いにおいて武闘家と魔法使いの共闘は、お互いの特性を活かし弱点を補いあうとされ、常識と言われるほどありふれたもの。
武闘一筋の武闘家、魔法一筋の魔法使いであれば、その傾向は更に顕著だ。
けれど、武闘一筋でありながらアルティナは、魔法使いとの共闘を好まない。
武闘家と魔法使いの共闘は、武闘家が前衛として時間を稼ぎ、魔法使いが強力な魔法で魔獣を一掃するというのが一般的で――それをアルティナが嫌うためだ。
「時間稼ぎ?魔法の前座?……そんなの冗談じゃないわ!」
共闘する魔法使いに対し、その大きな瞳に闘志を燃やし彼女は訴える。
「私の武闘は魔獣を倒すためにある!!」
そう公言して憚らない彼女は、可憐な容姿とは裏腹にこの上ない武闘至上主義者なのである。
戦いにおいての主導権を魔法使いに渡すことなど考えない。自らが戦いの主役に躍り出ずにはいられない性格もあって、普段魔法使いとは共闘しないアルティナである。
「私が共闘したいと思える魔法使いは、今のところガルだけよ。」




