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仮面の紋章使い  作者: 9BO
Chapter2:院内クエスト
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 シモンの洞窟はアルデルト学院の管理下にある修練場の一つであり、魔獣の強さから、一年生の単独での洞窟入りは制限されている。

 シモンの洞窟の魔獣の強さはギルド基準でいう、FランクからCランク相当。

 強い順に、A、B、C、D、E、F、Gとなっていて、一年生の戦闘力で単独で撃破可能とされているのがFランクまでであるから、妥当な制限である。

 ほぼFランクの魔獣しか現れない上層部には、修練のためチームを組んだ一年生の姿があるが、中層部、下層部となれば魔獣のランクがあがるため上級生しか利用しないのが一般的だ。




 リードリーフは魔穴の奥――下層部に自生する薬草であり、そこまで行くにはCランクの魔獣とも戦わなければならないため、サザーラの院内クエストのレベルは決して低いものではない。

 Cランクといえばギルドでいう「一流」の使い手たちが挑むレベルであり、学生であるとはいえそのランクの魔獣と単独戦闘が可能と認識されるほど、アルデルト学院においての2年生のレベルは高い。

 クロードに対し自分を「凡人」と評するユハスだが、彼は魔法科2年である。

 アルデルト学院において2年に進級している――それは、彼の優秀さの証明だ。


「4番解呪!」


 ユハスの言霊に反応して、彼の手から放たれた小さな宝珠が弾け飛ぶ!

 シモンの洞窟中層のDランク魔獣――エアウルフたちは、俊敏な動きで弾け飛んだ宝珠を回避するが、それは狙い通り。

 彼の魔術が真に発動するのはこれからだ。

 

「アイスニードル!」


 四方から現れた氷の刃がエアウルフたちを貫く! 

 精霊魔法アイスニードル。――本来は術者から一直線に敵を貫く初級の精霊魔法である。

 しかし、ユハスの発動させたアイスニードルは四方から――それも、初級とは思ないほどの威力をもって発動した。

 12匹中8匹のエアウルフが、絶命とはいかないまでも動きを封じられている。


 残る6匹が唸りをあげて大地を蹴るが、その攻撃がユハスに届くことはない。

 ユハスを庇うように前に出たクロードが、愛剣へと手を伸ばす。

 抜剣。

 その瞬間にうみだされた空気の刃が、その躯を両断する!


 そして、両断された躯が地に落ちるよりも早く、剣の切っ先が紋章を描く。


 自己魔導(セルフリード)――魔導水を使わずに自らの魔力で紋章を描く、紋章術において最も難易度が高いと言われる技で描かれた紋章が、外遊魔力を魔法に変換する!


 ユハスの魔法で動きを封じられたエアウルフと、クロードが両断したエアウルフを魔法により生み出された漆黒の闇が瞬時に飲み込んだ。


「終わったな。」


 そう言って剣を収めたクロードを、じとっとした目でユハスは睨んだ。


「また無意味に紋章術なんか使いやがって。」

「おまえだって使ってただろ。」

「俺とおまえを一緒にするな。」


 ユハスはクロードのような天才ではない。

 ユハスの魔力値は4200。

 一般人の平均値よりは高いものの、魔法科の生徒の中では平均の半分ほどの魔力値しか持たず――現代魔法をメインに使う魔法使いとしては、決して一流にはなれない数値だ。


 だからユハスは、ありとあらゆる外遊魔力を用いる魔術による戦闘スタイルをとる。

 ユハスはアイスニードルという精霊魔法を効果的に使うために、外遊魔力を用いる3つの術――結界術、方陣術、紋章術を掛け合わせたオリジナルの魔術を使った。


「俺はあらかじめ紋章術を仕込んだ宝珠を使ってるの。それに対してお前は自己魔導(セルフリード)のによる即時発動。俺と違って魔力ありあまってるくせに、どうしてそういうことをするかな。才能のない俺への嫌がらせとしか思えないね。」


 魔力値の低いユハスは普通に精霊魔法を使っても大した魔法にはならない上、魔力切れも早い。

 だからこそ外遊魔力を使う術を多用してそれを補う戦い方をするのだ。


「4種の術の掛け合わせなんて高等技術を使っておいて、才能ないってことはないだろ。」

「俺は自己魔導(セルフリード)なんかできないから、工夫するっきゃないんだよ!ああむかつく。いつか倒す!」


 さらにきつく睨み据えられ、クロードは苦笑する。

 魔法使いとしては並以下の魔力値(さいのう)しか持たないながらも、負けず嫌いで努力家のユハスはストレートで2年に進級するだけの能力を示している。

 そんなユハスをクロードは尊敬しているのだが、ユハスからは敵視されてしまうのだ。

 それに魔力がものを言う現代魔法とは違い、外遊魔法を用いる魔術は術者各々の『工夫』と『努力』こそがものを言う。

 そう言う意味でユハスは、外遊魔術の使い手として最高の才能の持ち主だとクロードは思う。 


 ユハスが元々口が悪いことを知っているので、心底嫌われているわけではないと理解しているが、それでももう少し友好的な関係が築いていきたいところだ。



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