表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面の紋章使い  作者: 9BO
Chapter2:院内クエスト
10/76

09

 魔獣との戦闘において魔法使いが最も恐れる事態が、魔力切れだ。

 精霊魔術や神聖魔術といった『現代魔法』と呼ばれる魔術は、無尽蔵にあるわけではない内包魔力を消耗する。そして、魔力切れを起こせば当然それらの魔法は使えない。


 魔力切れになれば、魔道具で回復させるか、時間をかけて自己回復力に任せるしかないのだが――魔道具は高価な上、持ち運べる量に限界がある。そして自己回復ではどうしても時間がかかる。


 だからこそ、戦場に立つ魔法使いは魔力切れ中に魔獣に対処する方法を考える。




 一つは武闘。

 自らの身体能力を鍛え上げ、武闘の技術を学び、魔力切れの間も自らの身を守るだけの力を身に着ける。

 ただしこれは基本的に身体能力の低い者が多い魔法使いの中で、実戦レベルでこの手段を選べる使い手は少ない。



 もう一つが共闘。

 パーティーを組んで、自分が魔力切れを起こしている間は他のメンバーがフォローできる状態にしておく方法。

 これが最も一般的とされているが、癖のある性格の者が多いとされる魔法使いの中には、共闘を嫌がる者も少なくない。



 そして残る手段が、外遊魔力を用いた魔術だ。


 だからこそ不人気ながらも紋章術を学ぶ者が、ゼロになることはない。

 外遊魔力を用いる魔術は紋章術だけではないし、サブとして用いるには難解すぎる魔術のため人気はきわめて低いが。







 魔法科2年のユハスは、今年入学したばかりの腐れ縁の幼馴染の戦いぶりに忌々しげに舌打ちする。


 幼馴染のクロードは、新入生ながらも百年に一人と言われる天才魔法使いである。

 魔力値は、英雄クラスと言われる十万超え。魔力だけでなく知識や実技も優秀で、多くの授業で上級生をもおさえて首位を独占している。

 その上魔法科の生徒でありながら、剣術・体術などあらゆる武闘科の授業を幾つも受け、武闘科生徒を差し置いて成績上位を独占していたりする。

 文武両道。魔法も武闘も学院最強の脅威の新入生である。


「お前が紋章術を学ぶ意味がわからん。」


 魔力値十万超えともなれば、そうそう魔力切れを起こすことなどない。

 万が一魔力切れを起こしたとしても武闘のみでも十分すぎる実力を持つクロードに、サブの外遊魔力を用いた魔術など不要だ。


 ましてや、敢えて難解な紋章術を学ぶなど――


「単なる時間の浪費!それじゃなきゃ、俺みたいな凡人に対する嫌がらせだな!」

「いいがかりはやめてくれ。」


 そう言ってクロードは、肩を竦める。

 神々しいまでの眩い金髪。濃厚な魔力に揺らめく角度によって色を変える不思議な瞳。物語の中から抜け出してきた王子様のような端正であり華やかな容姿は、同性のユハスから見ても見目麗しい。


「いいがかりなもんか。武闘・魔法ともに天才的な上、学院ないの女子どもの人気をほぼ独占するほどの容姿。欠点は真面目すぎるつまらない性格だけなんて、おまえの存在自体が俺に対する嫌がらせだ!」

「つまらない性格って……おまえ、あいかわらず毒を吐くな。」


 そう言いながらも、クロードに気分を害した様子はない。

 二人は幼馴染であり、お互いに性格を熟知している。こうした発言は今更すぎるものなのだ。


「俺的には性格だけじゃなくて、おまえの存在自体がつまらないぞ。」

「そんなこと、おまえにしか言われたことないけど……まあ、そうだろうな。」


 魔力値十万超え。

 それは、魔力がものを言う魔法使いにとって、生まれながらにして成功を約束されたも同然である。

 魔力値は生まれた時にすでに決まっている。だから魔法使いは、自らの限られた魔力をどう使うか――それぞれが工夫を凝らして一流を目指すのだ。


 しかし、クロードにはそうした工夫が不要だ。


 十万超えもの魔力が底をつくようなことなどまず有り得ない――無尽蔵にも近いような魔力量。

 世間一般からは天才と持て囃されるクロードだが、「魔法使いの面白さは限られた魔力をどう運用するかだ!」と公言するユハスにとって、クロードは面白味を欠く素材なのだ。


 才能だけで一流の魔法がつかえてしまうような天才より――並以下の魔力しかない魔法使いが、どう魔法をつかいこなすかがユハスの興味の対象である。


 それを知っているからこそ、クロードは納得している。


 そして自分の才能の上に胡坐をかくことを良しとしないクロードにとって、天才と持て囃される自分に毒を吐くこの幼馴染は貴重な存在だった。

 生まれ持った魔力だけで持て囃される――自分の努力を含まない才能だけを評価されるなど矜持が許さない。

 だから、武闘の技術も磨いてきた。魔力だけではないと。

 それは、紋章術を学ぶ理由も同じだった。

  

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ