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第1章 帰還招聘 - 02

 ―――11月初旬、曇。

 あのあと、数日の療養で癒えたタペス中尉は人事部長に呼び出された。

「入ります」

 人事部長室のドアをノックすると、中からどうぞ、と返答があった。

 部屋に入り、敬礼。

「第4航空艦隊付、トリイ・タペス中尉は、呼び出しに応じ、参りました」

 所属部隊が解体されてしまったため、今は航空艦隊付という扱いである。

「ああ、いいぞ、」

 人事部長は柔和な笑みを浮かべながら、応接用のソファに促した。

「大変だったろう、まあゆったりしながら聞いてくれ」

 人事部長は付兵が出してくれたコーヒーと茶請けを勧めてくる。

「ありがとうございます」

 許可()を得て、コーヒーに口をつける。

「あの、」

 次の配置はどこでしょうか、と聞こうとした私を人事部長は制した。

 そして、少し長くなるけれど、と前置きして経緯から話してくださった。


 ――タペス中尉、君の403偵空での働きを偵空司令も、航空艦隊司令部も高く評価している。粗削りなところはあるけれども、操縦技術も分隊指揮もよく頑張っている。並大抵の偵察機操縦士ではここまではまだできないんじゃないかな。分隊の最期は…残念、だったね。

 君を責めるつもりも、慰めるつもりもない。私も上層部も。強いて言うなら()()()()()()()()…。

 ともあれ、先にもいったように私達は君の頑張りを評価している。そこでだ、少し訊こう。

 南に行く気はあるかい? ――うん、良い返事だ。じゃあもう一つ、

 上司を絶対に守れるかい、絶対に? ――ほほう、潔いねえ、じゃあ最期だ。

 新しいものは好きかね? ――よしよし。ああ良かった。じゃあ君でいいだろう。


 言うまでもなく、南とはオテモ列島のことだけど、帝国に服従してから日が浅い。だがそこまで帝国を苦しめた忍耐力・戦法・技術を海軍はとても評価しているんだよ。臣民や陸軍と違ってね。

経緯はともあれ、仲間になったんだ。仲良く使わなきゃ損だろう?

君にはそこで小隊副長をやってほしいのだよ。

うん、良い返事だ。じゃあ決まりだな!

詳細の資料はあとで渡そう。命令の発出は週明けになると思うから、しっかり準備しておきなさい。


 話が一通り済み、部長は安堵したような表情で、冷めてしまったコーヒーを美味しそうに啜った。


「し、質問よろしいでしょうか」

「何かね?」

「主要装備は何でしょうか」

「ああ、大丈夫、今準備しているから、待っておきなさい。今はそれしか言えん」

「わかりました」


 しばらくして新配置の資料を受け取り、部屋を出ようとしたとき、部長に呼び止められた。

「あ、タペス中尉、注意事項なんだけどね、」

私はじっと人事部長を見つめた。人事部長は声を低くして、

「絶対に、()()()()()()()()()()。これは私個人としてではなく、皇帝陛下の勅令だと思って厳守せよ。いいな」

と命令した。まるで脅すかのように。

「了解しました!」

私はあらん限りの覇気でそれに返した。


 ◇◇◇


 部屋を出て歩きながら不思議に思った。

 軍人であれば、その任命式で上官への服従と、指揮官の守護は皇帝陛下の命令で絶対遵守だと宣誓する。至極当然のことなのだ。

 まあ、治安の不安定な任地への赴任だから、念押ししたんだろう、と思い、荷物をまとめに戻るため、歩みを早めた。


 ◇◇◇


 ――翌週

 第4航空艦隊人事部人事命令第30216号

 帝暦899年11月10日

 帝国海軍中尉 トリイ・タペス

 第4航空艦隊付 を解く。

 第4航空艦隊 西南洋護衛隊 第1航空隊 第11小隊 小隊副長 を命ずる。

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