序章 後悔にまみれて
私が17になった秋、戦争は始まった。
私が18になって初めての春、初めて前線へ巡幸した。
私が19になる夏、私は軍属となり、兵学校へ入った。
私が20になってから来た冬は、とてもとても厳しかった、私にも帝国にも。
今年で4度目の秋を迎え、未だ終わる気配はない。私は21になり、この春、特務中尉の階級を授けられた。
「――――か、殿下」
ハッとして声の方を見る。先帝が第6子、末娘ルーラ・マリー・モンド7世は長年付き沿う老執事を見やった。
「どうかなさいましたか、殿下? 長旅で疲れておいでですか」
「いや、大丈夫です。少し考え事をしておりました」
「殿下、配下の者に丁寧語で喋る必要はございませんぞ、それでは現場の下士官共は付け上がってしまいます」
じいやは眉を顰めて私の口調をたしなめる。
「ええ、わかっておりますよ」
私は変わらず丁寧語で返してあしらう。
兵学校を卒業してつかの間の休暇を終えた私は今、汽車を乗り継いで一路レクレ軍港を目指している。そこで戦艦の通信長補の配置に付く予定である。
通信長補とは? 文字通り解釈すれば通信長の補佐が主任務のように感じられる。しかし通常、中尉の初任配置であれば通信副長であったり、通信長に就く筈。常人なら違和感を覚える配置である。
――――お飾りだなんて
歯噛みする。
飾り飾られるのは馴れているが、今回ばかりはそうは問屋が卸せない。
先帝父王も現帝の兄上も、姉上たちも過保護は相変わらずだけれど。
“先帝の娘”として、誰かの役に立ちたくて軍人を志願した。
“先帝の娘”として、これ以上臣民に血を流させはしない。見たくはない。
“先帝の娘”以上の価値が、私にはあるのだと証明したい。
――そしてできるのなら“皇帝の娘”ではない、私が私だった証拠を残しておきたい。
そんな少しの自己犠牲と、尊大な自己保身がせめぎ合う自分に胸を傷ませながら。
着任の緊張と、戦火に赴く覚悟を決めた苦い唾を飲み込んで。
「殿下、まもなくですぞ」
私は、レクレ軍港に着いた。
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