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Invincibility Boy  作者: 過酸化水素水
第1層
4/4

2: 魔物と少年と

 

 下り坂に入ると、かなり先まで見通すことが出来た。

 遠くの地面の上に、小さな黒い点が見える。

 視力が非常に良い少年は、それが倒れた人間だと分かった。

 視線を右にずらすと、その道の外れに荷馬車と思われるものも見受けられる。

 先ほど聞えてきたいななきは、あそこから聞えてきたのかもしれない。


 少年はそれらに視線をやりながら、倒れた人間の所まで走り抜けた。

 魔物の姿は見当たらない。

 両端のどちらかの林に逃げ込んだのに違いない。

 そう思いながら、少年は地面にうつ伏せに倒れている人間に近づいていった。

 倒れているのは商人風の格好をした男で、先程の商人の仲間だということは疑いなかった。


「おいっ……ちっ」

 少年は商人の肩あたりを蹴りやって仰向けにさせようとしたが、蹴った瞬間男の首がだらしなく廻り、折れている事を悟った。

 確認するまでもなく、絶命していた。

 商人の隣にもう一人倒れていたが、こちらは一瞥するだけでも死は明らかだった。

 何せ、首から上が存在しなかったからだ。


「ぼ、坊ちゃん!?」

 ようやく、セドリックが追いついてきた。

 セドリックは二つの変死体を見るなり驚愕の声を上げる。

 それに対して、少年は鬱陶し気に反応した。

「やかましい! 叫ぶな」

「だって、そ、その人達は……」

「うるせえ、見りゃ分かる事をいちいち言うな」


 少年のそっけない態度に、セドリックはがくがくと体を震わせる。

「ま、まさか……坊ちゃん……」

 そして、少年に向き直って愕然とした表情で言った。

「その人に何を言われたのか知りませんが、人殺しをするなんて……」

「お前も逝けっ!!」

 と、いつもの癖で少年はセドリックに剣を振り下ろしてしまったが、自分が剣を抜いていることを完全に失念していた。

 一瞬後にそれに気付いたものの、もはや止めることは出来ず(止める気もなかったが)、そのまま振り下ろすことになった。


「はうあっ!?」

 ここより遥か東の地では、このような時に身を守る(すべ)があることをセドリックが知っていたのか定かではない。

 セドリックは間一髪、両手で挟んで受け止めた。

 ハラリと、セドリックの前髪が切り取られ、風に流されていった。

 合わせて皮一枚切られた額から、タラリと一滴の血が垂れた。


「……ちっ」

 少年は一度舌打ちすると、その剣を仕方なく腰の鞘に収めた。

 暫し呆然としていたセドリックは、ハッと我に返ると、猛然と少年に非難を始めた。

「な、な、何をするんですか坊ちゃん!? 私を殺す気ですか!? それに舌打ちするってどう言う事です!? …………はっ、ま、まさか!?」

 セドリックは少年から二歩ほど後ずさりする。

 少年はどさくさに紛れて、本気で自分を殺す気だったのではないかという思いが首をもたげたのだ。

 少年の行動として、ありえない事とは言い切れない。


 そんなセドリックを苛立った目で睨みつけて凍りつかせると、少年は少し離れた場所にいる荷馬車に近づいていった。

「馬は無事か」

 少年はどこか満足そうに頷いた。

 荷馬車の馬は二頭いたが、二頭ともに無事そうだった。

 後ろの荷馬車も壊れた箇所は見当たらない。動かすのになんら支障はないだろう。

 少年は後ろに廻って中を覗き込む。

「ふん」

 直ぐに少年は期待外れ、とでもいう様に鼻息を漏らした。

 興味を失って、再び道の上に戻った。


「こりゃあ、中々のものですねぇ」

 少年とは心なしか距離を置くようにして、荷馬車の後ろに廻り込んだセドリックが、馬車中を丹念に見ながら呟く。

 そこには様々な荷が押し込まれていたが、見たところ、多くは絵や壷などの装飾品だと思われた。

 中には、それなりに高価そうなものまであった。


「なるほどなるほど……」

 少年とは違い、芸術に多少関心があるセドリックは、中の一つを手に取りながらうんうんと頷く。

 心なしか顔が緩んでいた。


「まあいい。これで足が入った」

 少年は街道から、馬を眺めながら言った。

 それ聞いたセドリックは、途端に驚愕の表情を浮かべる。

「足が手に入ったって……まさか坊ちゃん。この馬車を盗むつもりですか!?」

「ああ? 盗むだと? ふざけんな! 盗むんじゃねえ。持ち主の居ない馬車を俺が有効に活用してやるだけだ。その方がこいつらも本望だろうぜ」

「な、なんて暴論」

 少年の言葉に、セドリックは恐れおののく。

 申し訳無さそうに、息絶えた商人達を見て頭を振った。

 少年に考えを改めて貰おうと、セドリックは口を開こうとした時――――林の中から破砕音が聞えてきた。


「……これは……魔法によるもの……でしょうか」

 セドリックの呟きに、少年はそれまでと一転して喜色を浮かべた。

「魔物か!!」

 誰かが魔法を使っている。それも、破砕音が木霊してくる程の魔法を。

 となれば、この状況では、その魔法は魔物に対して使われていると考えるのが妥当だった。


「お前は馬を確保してろっ!」

 そう言うなり、少年は音の聞えてきた林の中に駆け込んでいった。


「あっ! 坊ちゃん駄目ですって!! 危ないですよ……って、もう居ないか……」

 セドリックはその指示を受けるなり少年を咎めたが、既に姿は無かった。

「はぁ。全く……坊ちゃんは……」

 大きく溜息をする。

 完全に呆れ返った声色であるものの、セドリックは言葉通りには心配はしていなかった。

 それは少年に含む所がある、という訳ではなく。

 ただ、この林の先にどんな魔物が居ようとも、少年が遅れを取る事は無いということを確信していたからであった。


「もし、怪我でも負って帰って来たら、寧ろ可愛げがあるというものです……」

 虚空に向けて嘆息しながら、セドリックは少年の言いつけ通りに、馬達の懐柔に努めるのだった。



***



 少年は薄暗い林の中、巧みに障害物を避けながら全力で走る。

 左程深い林ではないので、外よりは薄暗いだけで木漏れ日はいたる所に存在していた。

 視界に困る事はありえなかった。


「……あっちか!」

 やがて、少年は林の奥から生物の気配を感じ取った。

 少年は、それが魔物かどうかまでは確信はなかったが、迷うことなくそちらに向かって速度を上げた。 違っていたらまた探せばいい。そう考えたのだった。


 少し進んで、この気配が魔物に通じていることを悟った。

 そこそこ大きい魔物の移動跡と思われる形跡が、地面に残っていたからだ。

 他にも魔法によって抉られた地面を発見した。

 方向の正しさを確認出来た為、更に速度を上げると、少年は自分の向かっている先に複数の生物の気配を感じ始めた。

「よし! 近いな」

 気配の数は三つ。

 どうやら魔物は一体のようだ。痕跡からはかなりの大型の魔物だと推測できる。

 少年は嬉しそうに口元を緩めた。


 多くの人間にとって、遭遇する魔物など、弱いに越した事が無いというのが、当たり前の思考である。

 だが、少年にとっては、より手応えのある魔物である事の方が重要であった。

 少年は自他共に認める、戦闘狂であった。


 そんな狂った期待を胸に、少年はそのまま林を抜け――――魔物の気配を捉えた。

 気配の場所に向けて、一気に距離を詰めようとして、少年は急に止まった。


「……何だ?」

 林を抜けた拓けた場所には、一本の樹が生えていた。

 種類は同じなようだが、周囲の木々とは明らかに異質な、とても巨大な樹が。

 何かが明確におかしいという訳ではない。

 ただ、少年はどうしても違和感が拭えなかった。

 


水弾(スプレッド)!!』



 少年の疑問は、突然の叫び声が差し込まれたことにより、そこで断ち切られる事になった。

「あっちか!」

 少年は再び気配の方向に向かって駆け出した。


 ――――その為、少年は気付かなかった。

 その樹の天辺付近に、樹の幹によって串刺しにされた、既に絶命している魔物の姿があった事に。


+++


「くっ! 効かない」

陥没(シンク)!』

 焦燥の声と被さるように、魔法を放つ声が響く。

 それと同時に少し先の地面が、民家の高さほど陥没した。

 その地面の真ん中に居た魔物と一緒に。

 しかし、直ぐに魔物はそこから這い上がってきた。

 足止めにすらならない。魔物の身体の大きさからすると、陥没した高さが十分ではなかったのだ。


「二匹いたなんて……」

「もう一度、アレを使おう」

 魔法を交互に使いながら、魔物の接近を食い止めようとしていたのは、二名の魔法使い(メイジ)だった。

 身体の線は細く、そして声の若さから少女である事が分かる。

 その内の一人が、もう一人の少女に提案をする。

 しかし――――


「無理よ。発動までに時間が掛かり過ぎるわ」

「そう、だけど……」

 キッパリと否定され、質問をした少女は言葉に詰まる。

 返答の正しさを認めざるを得なかった。


 その間にも、近づいてくる魔物に無向かって魔法を放ち続けていた。

 だが、まるで効果は無い。

 先程まで自分達を追ってきていた一頭の魔物を、何とか撃退した二人だったが、一頭を倒したと思って安堵したのも束の間、二頭目がどこからか姿を現したのだった。


 魔物は、巨大なトカゲと称するのが適当だろう。

 巨大な身体は堅牢な鱗で覆われており、それが魔法をまるで通さない。

 鎌首であり、威嚇するように開いた口からは、先が二又に分かれた長い舌が見え隠れし、鋭利な牙がのぞいている。

 その上、顎から伸びている二本の巨大な牙の先から垂れる液が地面を叩く度に、ジュワっと煙が上がっていた。

 強力な毒素を持った液体である事が伺い知れる。

 傷をつけられるだけで、人間などは即死すること間違いない。


 その魔物は、『リザードドラゴン』と呼ばれる、魔物の中でもかなり危険な部類に属する魔物だった。

 最近の魔物の生態の研究から、リザードドラゴンはつがいで行動することが分かっている。

 しかし、少女達は魔物に詳しくなかった為、そのことを知らなかったのだ。


 その危険な魔物が、二人との距離をどんどん詰めてきていた。

 一度立ち止まってしまった所為か、二人に再度走る体力はなく、今は近づかれるのを魔法で必死に妨害して時間を稼いでいた。


「でも、このままじゃ、いずれ殺される」

 魔法による時間稼ぎも、殆ど効果が無い。

 距離を零にされるのも、もうそれほど先の事ではないだろう。

 その事がハッキリと分かった少女は、沈痛な表情でもう一人の少女に言った。


「分かってるわ!」

 自分達はどうしてもこんな場所で死ぬ訳にはいかない。

 その想いで胸が一杯になり、少女は思わず怒鳴り返した。

 そんなやり取りをする間にも、みるみる距離は縮まってくる。

 もう考えている余裕は無い。


「一か八か、もう一度やってみよう。どうせこのままだと……」

 殺される。それも恐らく惨たらしい形で。

 それは一緒に行動を共にしていた、商人達の末路を見れば明らかだった。


「…………」

「早く! 時間が無い!」

「わ、分かったわ」

 そうして、二人は寄り添うように近づくと、集中を始めようとした。が、それは叶わなかった。

 突然魔物が二人の目の前まで、飛び跳ねるように跳躍してきたからだ。


「えっ?」

「そんな!!」

 魔物を眼前にして、少女達の集中は霧散する。

 魔物の大きさを改めて悟った。

 魔物の赤い目でジッと見据えられると、二人は恐怖で身動き一つとれなくなった。

 丸呑みしようというのだろう。

 魔物は少女たちなら一呑みになるほど大きく、ぽっかりと口を開いた。

そのまま魔物はかぶりつくように、少女たちに頭部を寄せて――――


「おらあああっ!!」


 横合いから風のように近づいてきた影が、雄叫びを上げながら魔物にぶつかった。

 少なくとも少女達にはそう見えた。

 というより、突然の事で少年が何をしたのか捉えきれなかった、というのが正しい。

「え?」「何?」

 少女たちの口から唖然とした呟きが漏れる。


 魔物から庇うように少女たちの前に入り込んだのは、自分達と同年代らしき少年だった。

 前を向いているので顔はよく見えないが、その代りに鮮やかな金髪が目についた。

 二人はぼうっとその後ろ姿を見つめた後、我に返った。

 慌てて、魔物に視線をやる。


 自分達を今にも食さんとしようとしていた魔物は、いつの間にか距離をあけていた。

 まるで、少年を警戒するように、鎌首を擡げている。

 魔物の顔の辺りに、先程までは無かった、一筋の線が走っていた。

 何の線か分からず少女たちは不思議に思ったが、少年の手に剣が握られているのに気付いて、驚きから目を見開いた。

 普通の魔法ですら傷一つ付けることも出来なかった魔物を、その剣で傷つけたのだということを悟ったからだ。


 そのまま、二の句が告げない二人に対して、少年は一言「下がってろ」とだけを言い放った。

 そして、右手に握っている剣を担ぐように自分の肩にトントンと押し当てる。


「へっへっへ。中々歯ごたえのありそうな奴じゃねえか。頼むからあっさり死んでくれるなよ?」

 凄絶な、という喩えが相応しい笑みを浮かべながら、少年は威嚇を続ける魔物を意にも介さず、悠然と近づいていく。

「あ、危ないわ!」

「…………」

 少女たちにはそんな少年の行動は蛮勇に映った。

 なので、止めさせようと声を投げかける。


「へっへっへ」

 しかし、少年は楽しそうに笑うだけで従おうとしない。

 その足取りは軽く、恐怖は微塵も感じられない。

 少女たちは頭がおかしいのでは、と疑い始めていた。


 遂に、魔物が牙を剥いて少年に噛み付こうとする。

 その牙の前には、少年の身体など紙のようなものだ。

 少女たちはその瞬間を想像して、目を瞑って顔を背けた。

 続くのは少年の絶叫。それを少女たちは想像した。


 ――――絶叫が聞えた。


 ただし、それは少年のものではなく。魔物のものだった。

 少女たちは恐る恐る目を開いて――――その目の前の光景に信じられない想いを抱くことになった。

 そこには、横倒しになった魔物の前に、悠然と立っている少年の姿があった。

 その手には、剣と、何か紐状のものが握られている。

 少女たちはそれが何か分からず、魔物と少年を数度往復して、正体を悟った。


「舌?」

「……みたい」


 濃紫色の紐の先は、二又に分かれていた。

 先程まで、嫌がおうにも目に付いていた、魔物の舌に違いなかった。

 舌を失った痛みからか、魔物はその場で暴れまわる。

 口からは紫の血をドロドロと垂れながし、大地をその色で染めていた。


 一方少年は返り血一つ無く、鬱陶しそうに持っていた魔物の舌を、無造作に横に放った。

「ちっ。でかいのは図体だけか……」

 少年は心底つまらなさそうに呟くと、興味を失ったように剣を数度振って魔物の血を拭うと、それを鞘に収めてしまった。

 そして、魔物の横を素通りして、来た道を戻り始めた。


 そんな少年の奇行を呆然と見ていた二人だったが、

「……今の内に、私達も逃げられるんじゃ?」

「あ、そ、そうね」

 その事に気付いて、少年の後を追おうとした。

 しかし、流石に魔物はそうはさせてくれなかった。


 痛みを乗り越えたのか、魔物は傷つけられた事に対する怒りに満ちた双眸を、去っていく少年の背中に向けた。

 そうして巨体を屈めるように、重心を落とした体勢になる。

 先程のように、跳躍をしようとしているのに違いない。

 それに気付いた少女たちは、少年に呼びかけようとする。

「後ろっ!! 魔物がっ……」


 ただ、少女たちが言い切る前に、魔物は宙を飛び、前を向いたままの少年に飛び掛った。

 巨体で押しつぶそうというのだろう。

 魔物はその巨体からは信じられない速度で宙を移動する。

 質量から考えると、圧し掛かられたら少年などひとたまりもないに違いない。

 最悪な光景が目の前に広がるのは間違いなかった。

 少なくとも、少女たちは今度こそそれを疑わなかった。


 ――――しかし、想像は再び裏切られる事になった。

 

「鬱陶しいっ!」

 少年が発したのはそれだけである。

 悲鳴でも、苦痛の声でもない。

 そして、本当に面倒そうに横跳びで魔物の進行上から脇に外れると、いつの間にか抜いていた剣を振り向きざまに一線した。


 普通ならそんな剣一本で、勢いのついた巨体がどうなるとも思えない。

 ましてや、この魔物は魔法すら通さない、固い皮膚で体中が覆われている。

 著名な騎士達ですら、容易に倒す事はままならないだろう。

 ましてや、剣一本の一太刀でどうなるものでもないと言う事は、剣に疎い少女たちですら分かる、簡単な問題だった。


「…………」

「…………」


 だからこそ。少女たちは絶句した。

 視線はソレから逸らす事が出来ない。


 その――――頭部の無い魔物の躯から。


 魔物は首の先から綺麗に切断されていた。

 その平らの切断面こそが、剣で斬った証明である。

 魔物の身体は、頭部が切断されたことに気付いていないようにジタバタと地面を蠢いていたが、やがて動きを止め、後は小刻みな痙攣を繰り返すだけであった。


 残された頭部はまだ生きていた。

 魔物は何が自分のみに起こったのか分からないのか、変わらず少年に向けて威嚇を続けていた。

 が、やがて双眸から光が消え、身体と同様に生命活動を停止した。

 むせ返りたくなるような血の臭いが周囲に充満する。


 少女たちは唖然として魔物の息絶える様を見ていたが、その臭気によって現実に引き戻された。

「な、何? 一体、今何をしたの?」

 少女の一人は目を見開いて、誰かに対してというでもなく、虚空に疑問を投げかける。

 危険が去ったことを悟った為か、大分落ちつきを取り戻していたが、平静とはいかなかった。

「……剣で斬ったみたい」

 もう一人の少女は、どこか呆れたように呟く。

 

「斬った……って……」

 少女はこの光景を作り出した少年に視線を移そうとして、その姿がなくなっている事に気付いた。

「え? あ、あの方はどこに!?」

 慌てて周囲を見回すが、姿は見当たらない。

 それに対しての回答は、相棒の少女が答えた。

「……林の中に入っていった」


「な。気付いていたなら、何で呼び止めないのっ!? あの方を逃しては駄目よ!」

「逃しては駄目? ……どうして?」

 問われた少女は焦燥の意味が分からず、首を傾げる。


 それに対して、

「決まってるでしょ」

 少女は林を見つめたまま、はっきりと断言した。



「彼はきっと――――『守護者』足りうる存在よ」



 そして、そう告げるなり、少女は少年の後を追うように走り出した。


「…………」

 残された少女は驚きの表情を隠さなかったが、特に何を言うでもなく、一度魔物の死骸に視線を向ける。

 少しの間その惨状を見ていたが、頭を左右に振ると、同じくこの場を後にした。


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