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無題シリーズ

無題2

作者: 中原恵一

意味なし。

二、三歩後ろに下がって、思い切り壁に蹴飛ばした。


べちゃ、と水分が多いものが潰れた音がした。


それから暫く、狂ったように残骸を踏み潰した。

中身は地面と一体化して、ぐちゃぐちゃになっていった。実の一粒一粒を潰すたびに快感を覚えた。


仄かに赤い液体が周囲に放射状に飛び出し、さながら惨状である。


蜜柑だ。衝撃で厚い皮が縦にざっくりと割れて、柑橘類特有の鼻につく芳香を撒き散らしている。


私はたまにここ、一日三度ほどしか電車の通らない鉄橋の下に来て、通学路にで手に入れた果物を叩き潰すのが趣味だ。誰も来ないので、思う存分本能の赴くままにやれる。爽快だ。


今日も学校へ行く途中、近所の空き地に生えている柿の木と蜜柑の木を見つけて、無性にめちゃくちゃにしてやりたい衝動に駆られ、四、五個ほど黙って拝借してしまった。一回民家のを盗ったこともある。


一時は家にある廃品回収用の電卓やらラジオやらを鋏で切り刻んで、中身の電子回路やら基盤やらがバラバラになるのを見てたまらないと思っていたが、最近何かもっと刺激的なものを壊したかったので、こうしたことをはじめた。


また以前、学校の友達からお土産だと言って饅頭を貰ったときも、同じように橋の下で箱ごとやってしまったこともある。


夜十一時ぐらい、確か冬の塾の帰り、雪は降っていなかったが気温で零下、真っ暗になって月明かりもなかったが、原型を留めていないほどに引裂いた。我慢できなくなって、気づくと手持ちのナイフをとり出して自分のノートやら壊しても良いものはすべて壊していた。

犬のように息を荒くして次から次へとものを壊す様は、はたから見たら発狂したようだっただろう。これを見たのが善良な市民たちならば不審者だといって確実に警察に通報したに違いない。


十、二十分後ぐらいにちょっと冷静になった。

そして、その場に寝転がり、笑った。乾いた笑い声だった。


今までやってきたことがひどくアホらしく思えた。

衝動を抑えることができず、こうしてバカな発散な仕方しかできない自分。


今までやってきた全ての中には犯罪になるかといったら微妙なものもあるが、止められない。

そもそも法律を気にしていたらやらないだろう。


たぶん人間の本能には破壊衝動があるのだ。


格闘ゲームで相手を倒す。

小学生が虫や小動物を飼って殺す、或いは殺すためだけになぶり殺す。

ジムに行きボクシングの練習でサンドバックを蹴る、殴る。


逆らえない機械や植物を自分の思いのままにし、慰み物にする。

そうして、潰したものより優位に立つ。私がやっていることと大差ない。


そこに理性など介在する余地があるのか?

私という人間のこれら一連の行動に誤りなどない、そのはずだ。


そんなこんなで先日、友人の一人にばれて猛烈に咎められるまでやめるツモリはなかった。

なぜ文句を言われなければならないのか理解できなかった。


彼だって彼なりの「理性」に基づいて、毎日数え切れない生物の死骸を食い、それを綺麗に飾って「母親の手料理は旨い」などといって食べている癖に。


今度は何をしよう?


フィクションです。

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