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お義母様、それは私が殺しましたが、何か問題でも?〜復讐完遂令嬢は次の人生を無双する〜  作者: 和三盆


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第70話:線が引かれる日

朝、王宮の鐘が三度鳴った。


告知は簡潔だった。

掲示板に貼られた一枚の紙。

文面は、丁寧で、冷たい。


――公共の秩序維持のため、質問・指摘は所定の窓口に限る。

――現場での確認行為は、混乱を招く恐れがあるため控えること。


線が、引かれた。


市場の空気が、目に見えて変わる。

人々は紙を読み、互いの顔を見る。

声は出ない。出せない。


「……窓口、ってどこだ」


誰かが小さく呟く。

答える者はいない。


アリエルは少し離れた場所から、その様子を見ていた。

因果が、細く張り巡らされていくのが分かる。


(禁止じゃない。

ただ、遠ざけただけ)


(質問は許される。

だが、届かない)


相談所にも、同じ紙が届いた。

朱印は重い。


セドリックが読み上げる。


「……“正式窓口は王宮内文官局に限る”」


市場の女が、息を吐いた。


「つまり、

私たちの所では“聞くだけ”ね」


「記録は取れる。

答えは、向こう次第だ」


「……答えが来る頃には、

状況が変わってる」


沈黙。


そこへ、一人の老人が入ってくる。

帽子を胸に抱え、視線を彷徨わせている。


「……窓口に、行ってきた」


声は、枯れていた。


「どうでしたか」


老人は、苦笑した。


「番号札をもらって、

“追って連絡”だそうだ」


「……いつ頃か、は」


「聞いた」


「“未定”だと」


笑いは、起きない。


(これが、線の正体)


(禁止よりも、

よほど効く)


昼過ぎ。


治安兵が市場を巡回する。

以前より、数が多い。

だが、剣は抜かれない。


代わりに、視線がある。


掲示板の前で立ち止まる若者に、

兵が声をかける。


「何か?」


若者は、首を振る。


「……いえ」


去っていく背中。

質問は、口の中で溶けた。


アリエルは、外套の影で目を閉じる。


(線は引かれた)


(だが、

引いた者の手が、見えすぎている)


夕方。


相談所に、例の妹が来た。

表情は、落ち着いている。


「……あれ、読みました」


「はい」


「私、

窓口に行った方がいいですか」


セドリックは、即答しない。


アリエルが、代わりに言う。


「行ってもいい」


「でも、

一人では行かないで」


彼女は、少し考えてから、頷いた。


「……分かりました」


帰り際、彼女は小さく言う。


「質問って、

こんなに重かったんですね」


重いのは、質問じゃない。

扱い方だ。


夜。


王宮では、別の紙が回る。


――質問件数、急減。

――市場の混乱、沈静化。

――措置、一定の成果あり。


文官長は、満足げに頷いた。


「数字は正直だ」


部下が、控えめに言う。


「……ただ、

囁きは、増えています」


「構わん」


「声にしなければ、

問題ではない」


その言葉が、

部屋に残る。


アリエルは、夜風に当たる。


(声にしなければ、

存在しない――か)


(なら、

次は)


(声にしなくても、

分かる形だ)


遠くで、誰かが掲示板の紙を剥がした。

すぐに、別の紙が貼られる。


線は、保たれる。

だが、跡は残る。

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