第61話:条件の書き換え
条件は、夜のうちに書き換えられた。
朝。
王宮前の掲示板に、新しい紙が重ねられている。
昨日の布告の上から、丁寧に。
――責任者の裁量は、緊急時に限り認める。
――ただし、その判断は即時報告を要する。
――報告がなされない場合、当該判断は無効とする。
(……縛り直し)
アリエルは、紙の端を目で追った。
因果が、細く締まる。
(“善意”を、例外に押し込めた)
市場では、人が立ち止まる。
読む。
だが、声は出ない。
「……緊急、って何だ?」
「向こうが決めるんだろ」
「昨日のは?」
「さあな」
分からないまま、覚える。
詰所の前。
札は、変わらず掛かっている。
質問受付時間:申刻。
セドリック・ルーンは、いつもより早く立っていた。
背後には、文官が二人。
(増えた)
ローレンが、低く言う。
「監視が、露骨だな」
「ええ」
アリエルは、因果を見る。
(昨日の“越権”が、
王宮に届いた証)
最初の質問者が、前に出る。
「質問です」
「どうぞ」
「昨日、解放された本屋の件は、
緊急でしたか」
真っ直ぐな問い。
セドリックは、息を吸う。
「……私にとっては」
背後で、ペンが止まる。
「彼が、
悪意のない拘束だったからです」
「それは、
あなたの判断ですね」
「はい」
一拍。
「だから、
私の責任です」
人は、頷く。
怒らない。
(通した)
二人目。
「質問です。
緊急でない場合、
同じことは、もう起きませんか」
(……核心)
セドリックは、言葉を選ぶ。
「起きないとは、言えません」
正直だった。
「ただし」
顔を上げる。
「起きたら、
私は、同じ場所に立ちます」
「昨日と、同じように」
静かな空気。
(……また、名を出した)
アリエルは、因果が震えるのを感じた。
(王宮は、
“個人化”を嫌う)
質問は、三つで終わる。
列は、短い。
だが――
去り際の視線が、違う。
(見ている)
昼。
王宮の会議室。
「補佐の発言が、
また個人責任を強調しています」
「条件を書き換えた意味がない」
文官長は、黙って聞いていた。
「……では」
ゆっくり言う。
「条件を、もう一段、変えよう」
視線が集まる。
「責任者を、
複数にする」
空気が、変わる。
「一人に集中させない」
「判断を、
“合議”にする」
(……薄める気だ)
その夜。
追加の布告は、
まだ出ない。
だが、王宮内では、
名簿が回り始めた。
候補者。
文官。
治安側。
(盾を、増やす)
アリエルは、外套を整える。
(名が増えると、
責任は軽くなる)
(でも――)
街では、
今日も静かだ。
本屋の主人は、店を開けている。
娘が、帳場に立つ。
人は、買う。
話さない。
(“守られた事実”は、残った)
ローレンが、言う。
「分散されたら、
どうする?」
「ええ」
アリエルは、淡く笑う。
「分散は、
逃げでもあります」
「でも、
選択肢も増える」
因果は、枝分かれする。
合議。
責任。
沈黙。
(次は、
誰が“口を開くか”)
その一人が、
物語を、また動かす。




