表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お義母様、それは私が殺しましたが、何か問題でも?〜復讐完遂令嬢は次の人生を無双する〜  作者: 和三盆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/59

第6話:王都の風と、知られざる守人

 王都はいつもより冷たい風を運んでいた。市場の喧騒、馬車の軋み、掲示板に張られた布告。どれも日常だが、今朝はレオノール家の名が民衆の噂として静かに広がっていた。


 『侯爵家の家令が逮捕された』。


 情報はくすぶる火種のように、商人の徒党、噂好きの老女、そして王都の小路を行き交う役人へと移っていく。噂は次第に誇張され、夜までに王都の知るところとなった。


 王宮の高窓を見上げる一人の男がいた。ヴァレン伯――王の側近であり、王都の秩序を司る男だ。黒の外套を羽織り、眉間には常に影がある。彼の机の上には、マリオ逮捕の覚書が置かれていた。


「侯爵家の騒動か。表沙汰にせずに済むだろうか」


 欄外には王の署名がこそっと残されている。国王の関心がそこにあることを示していた。ヴァレンはゆっくりと書類に指を滑らせ、ふと窓の外に目をやる。王都の遠景には、家々の屋根が灰色のモザイクのように広がっている。


 その時、若い使者が駆け込んできた。顔をあげると、使者の手にはレオノール家からの急信が握られている。


「伯爵、侯爵夫人が王に直訴を求めております。家名の汚点を晴らすために、王の裁定を仰ぎたいとのことです」


 ヴァレンは眉を寄せ、書類を受け取る。文面は冷たく硬い。侯爵夫人リディアは、公正な審議を願うと訴えていた。だが文面の隅には別の記述があった——王宮近衛隊が注意深く監視しているという一行だ。


(なるほど。侯爵家の内紛が王の耳に入れば、事は思わぬ方向に転がる)


 ヴァレンは机の引き出しから封印された小箱を取り出す。中には、王都の秘密に通じる古い名簿が入っている。そこに記された名の一つに、彼は指を止めた。


 『黒鴉ブラッククロウ』——公には存在しない、古い伝説の守人集団。彼らの存在は、数十年前に噂されるのみで、今は半ば忘れられている。しかし、書き付けられた名は確かにそこにあった。


 ヴァレンは唇を固く結び、使者に命じる。


「王に事実だけを報告せよ。感情は余計だ。だが、記録を取れ。必要なら、黒鴉へも連絡を取れ――慎重にだ」


 一方、レオノール家では波紋が広がっていた。マリオ逮捕の余波で、屋敷に呼ばれたのは家臣、領地の徴税人、さらにはリディアの古い後見人だった。噂は人々の表情を硬くし、屋敷の空気を薄くする。


 アリエルは冷静にその様子を見つめていた。帳簿を握った手は揺れない。だが、胸の中に小さな棘が刺さる。それは、自分の次の一手が単純なものではないことを告げていた。


(官僚が動く。王の耳に届く前に、私が手を打たねば)


 その夜、屋敷の庭に一人の影が訪れた。黒ずくめのフードを被り、足取りは軽いが音を立てない。影はアリエルの窓の下で立ち止まり、静かに呟いた。


「侯爵令嬢、宵闇に用があるなら応じます」


 アリエルは窓から影を見下ろす。声は男のものだが、どこか若さが混じっている。彼の腕には小さな紋章が刺繍されていた——それは、古い伝承に刻まれた“黒鴉”の印だった。


 驚きと警戒が同時に走る。しかし、彼の眼差しには敵意がない。むしろ――守る者のそれだった。


「あなたは誰?」


「名乗る必要はない。だが言おう。王の手は、今回の事をただの内紛にしてはおかぬ。君がこれ以上独りで刃を向け続けるのなら、国が君を裁く材料を集めるだろう」


 アリエルは微かに笑った。胸の中の計算が、もう一度動き出す。


「ならば教えて。黒鴉は何を守るの?」


 影は静かに答えた。


「王国の均衡だ。だが時に、均衡は人を切り捨てる。君のような者も含めて」


 短い言葉だった。危険と同時に、わずかな救いの匂いが含まれていた。


 影は去る前に一枚の小さな札を落とした。紙にはこう記されていた——『王都に聞こえぬよう、動け』。


 アリエルは札を拾い、掌に乗せる。黒鴉の存在は、彼女の計画に新たな変数を投げ込んだ。守りがあるということは、裏を返せば攻めの選択肢も増える。


(面白い……だが、信用はまた別の通貨だ)


 その夜、窓辺でアリエルは短剣を撫でた。遠く、王宮の窓明かりが冷たく光っている。


 剣先に浮かぶ月光が、彼女の瞳を赤く染めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ