表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お義母様、それは私が殺しましたが、何か問題でも?〜復讐完遂令嬢は次の人生を無双する〜  作者: 和三盆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/69

第59話:書かれなかった答え

文書は、静かに貼り出された。


丁寧な文字。

無難な言い回し。

角の取れた表現。


――本件は現在精査中です。

――判断基準の明確化に向け、検討を進めています。


(……答えていない)


アリエルは、紙の前で立ち止まる人々の気配を読む。

因果が、わずかに軋む。


(これは、書いた“つもり”の文章)


市場の端で、男が言う。


「で、結局どうなるんだ?」


「さあな。検討中、だってよ」


「いつまで?」


誰も、答えない。


怒声は上がらない。

代わりに、空白が広がる。


その日の午後。


詰所の前に、列はできなかった。

質問時間になっても、三人だけ。


(減った)


ローレンが、低く言う。


「落ち着いた……わけじゃないな」


「ええ」


アリエルは、頷く。


「“聞くのをやめた”だけ」


最初の女が、前に出る。


「質問です」


セドリックは、深く息を吸った。


「どうぞ」


「昨日、文書で回答すると言っていましたね」


「……はい」


「その答えが、これですか」


紙を、軽く振る。


「……はい」


女は、しばらく見つめ――言った。


「これは、答えじゃありません」


責める声ではない。

確認する声。


「いつ、明確になりますか」


セドリックは、背後を一瞬だけ見る。


文官は、何も言わない。


(……今だ)


「……約束は、できません」


正直だった。


女は、頷いた。


「分かりました」


それだけ言って、去る。


二人目は、来なかった。

三人目も、来ない。


列は、解ける。


(静かすぎる)


アリエルは、因果の先を見る。


(書かれなかった答えが、

別の形で歩き始めてる)


夕方。


酒場の隅。


「知ってるか?」


「何が」


「誤認ってさ、

結局、止めようがないらしいぞ」


「責任者がいるんじゃ?」


「名前だけだって」


言葉は、角を持ち始める。

誰かが、誰かに“伝えた形”。


(……歪む)


その夜。


王宮に、一枚の報告が届く。


――市中にて、

――事実と異なる情報の流布を確認。


文官長が、眉をひそめる。


「……来たな」


「どうします」


「……締めるか」


その決定は、早かった。


翌朝。


新しい布告が、貼り出される。


――虚偽情報の拡散を禁ず。

――違反した場合、調査対象とする。


短い。

強い。


街が、止まる。


「……あれ」


「質問したら、

虚偽って言われない?」


「昨日の話、

もう言えないのか」


(踏んだ)


アリエルは、目を閉じる。


(“答えない”を続けて、

“黙らせる”に切り替えた)


ローレンが、低く呟く。


「まずいな」


「ええ」


アリエルは、外套を整える。


「書かれなかった答えは、

必ず、別の形で噴き出します」


その日の申刻。


詰所の前に、人は立たなかった。


質問は、消えた。


だが――

因果は、濃くなる。


沈黙は、

納得ではない。


蓄積だ。


セドリックは、札の前で立ち尽くす。


(……守られているのは、

俺じゃない)


守られているのは、

“答えない仕組み”。


彼は、拳を握った。


(このままじゃ、

名を出した意味が、なくなる)


遠くで、誰かが囁く。


「……次は、どうなる」


アリエルは、微かに笑った。


(次は、

言葉が、罰になる)


それが、

書かれなかった答えの――

代償だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ