第58話:条件付きの庇護
守る、という言葉には
いつも裏がある。
それを、セドリック・ルーンは理解していた。
王宮西棟、採光の悪い会議室。
文官長、法務顧問、治安部代表。
全員が、机越しに彼を見ている。
「――結論から言おう」
文官長が口を開く。
「君は、当面“責任者”の任を続ける」
セドリックは、頷いた。
「ただし」
来た、と内心で思う。
「条件付きだ」
沈黙。
「質問対応の内容、
規則修正案、
現場への指示――」
文官長は、一枚の紙を差し出した。
「すべて、
事前に我々の確認を通す」
(……鎖か)
守る代わりに、
自由を削る。
「異論は?」
問われているようで、
答えは決まっている。
「ありません」
セドリックは、そう言った。
(守られる理由は、
“管理できるから”)
王宮は、彼を盾として使う。
だが、暴走はさせない。
(合理的だ)
――合理的すぎる。
その日の午後。
詰所の前に、また札が出た。
――質問受付時間:申刻。
――一部質問は、後日文書回答となります。
列は、四人。
セドリックは、今日も前に立つ。
だが、昨日と違う。
背後に、文官が一人。
記録係だ。
(見られている)
最初の男。
「質問です」
「どうぞ」
「昨日の拘束件数は、何件ですか」
セドリックは、一瞬、視線を後ろへ。
文官が、小さく頷く。
「……三件です」
「誤認は?」
「一件です」
男は、眉をひそめる。
「昨日も?」
「……昨日も、一件です」
(積み上がる)
アリエルは、離れた場所で因果を見る。
(数字は、刃になる)
次の女。
「質問です。
誤認が続いている理由は?」
セドリックは、答えかけ――止まった。
(これ、事前確認が要る)
文官が、咳払いをする。
「後日、文書で回答します」
女は、頷いた。
「分かりました」
怒らない。
だが、覚える。
列の最後。
少年だ。
「質問です」
声が、少し震えている。
「……父が、誤認で拘束されました」
空気が、僅かに重くなる。
「今は、帰っています」
「でも……」
少年は、唇を噛む。
「また、捕まりますか」
セドリックは、即答できなかった。
(……これも、事前確認?)
背後の文官が、何も言わない。
(今は、俺の番だ)
セドリックは、しゃがんだ。
「……分からない」
正直だった。
「でも」
目線を合わせる。
「同じ理由で捕まったら、
私は、必ず記録を見る」
「そして、
“同じ誤認”なら、
止める」
少年は、じっと見つめ――小さく頷いた。
列は、そこで終わる。
人は、散る。
だが、空気は残る。
ローレンが、低く言う。
「……条件、効いてきたな」
「ええ」
アリエルは、静かに答える。
「守られているけれど、
動きが鈍った」
因果が、二重になる。
セドリック自身の線と、
王宮の線。
(どちらかが、先に切れる)
その夜。
セドリックは、一人、机に向かう。
事前確認用の書類。
赤字。
差し戻し。
(……答えが、遅れる)
答えが遅れると、
信頼は、痩せる。
彼は、ペンを置いた。
(条件付きの庇護は、
いつまで“庇護”なんだ)
窓の外。
街は、まだ静かだ。
だが、その静けさは、
今日、少しだけ重い。
質問は、続く。
答えは、遅れる。
その差が、
次の亀裂になる。
アリエルは、外套を整えた。
(次は、
“答えられなかった質問”が、
独り歩きする)
それが、
守られる理由を、
試す。




