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お義母様、それは私が殺しましたが、何か問題でも?〜復讐完遂令嬢は次の人生を無双する〜  作者: 和三盆


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第41話:偶然という名の刃

事故は、あまりにも自然だった。


それは誰の目にも「不運」でしかなく、

誰の記録にも「事件」とは残らない。


だからこそ――

それは、因果の牙だった。


王宮西棟、午後の回廊。

採光の良いその場所で、アリエルは文官との面会を終え、外へ向かっていた。


「報告は以上です。

物流に関する記録は、三日以内に整理されるでしょう」


若い文官は丁寧に頭を下げる。

どこにでもいる、誠実そうな男。


「ありがとう」


アリエルが微笑み、踵を返した――

その瞬間。


――ギギッ。


天井で、微かな軋み音。


(……?)


気づいたのは、ほんの一瞬早かった。


石像。

回廊の装飾として設置されていた、翼を持つ女神像。

その固定金具が、外れている。


「アリエル――ッ!!」


ローレンの叫び。


だが、距離がある。

間に合わない。


落下。


石の影が、視界を覆う。


(……来た)


不思議と、恐怖はなかった。

あるのは理解だけ。


(これが、“世界から狙われる”)


――だが。


次の瞬間、

落ちるはずの石像が、逸れた。


重たい衝撃音。

床が砕け、破片が舞う。


アリエルは、無傷で立っていた。


彼女の前に――

誰かが、立っていた。


「……っ」


短く息を詰めた声。


黒鴉。


彼は片腕で女神像を受け流し、壁に叩きつけていた。

その代償として、肩から血が流れている。


「黒鴉!」


ローレンとセリオンが駆け寄る。

文官は腰を抜かし、呆然と石像を見つめていた。


「……偶然、ですか?」


アリエルの声は、冷えていた。


黒鴉は肩を押さえながら、苦笑する。


「いや。

これは――“調整”だ」


彼は天井を見上げる。


「金具は、昨日までは正常だった。

だが今日、なぜか緩んでいた。

作業記録も、点検記録も……“問題なし”になるだろう」


セリオンが、即座に理解する。


「……因果の反動」


「そうだ」


黒鴉は、アリエルを見る。


「君が切った“守られた未来”の分、

世界は別の形で均衡を取ろうとする」


アリエルは、拳を握りしめた。


(私を、直接殺せないから――

“事故”にする)


「卑怯ね」


「世界は、正々堂々とは戦わない」


黒鴉は静かに言う。


そのとき、文官が震える声を出した。


「わ、私は……何も……

本当に、何も知らなくて……!」


アリエルは彼を見る。

因果の糸が、細く、弱く伸びている。

この男は、使われただけだ。


「下がりなさい」


文官は、何度も頭を下げて逃げるように去っていった。


ローレンが、低く言う。


「次は?」


「もっと巧妙になる」


黒鴉が答える。


「“事故”が続く。

君の周囲で。

君を守ろうとする者ごと、巻き込む形でな」


空気が、重く沈む。


(……やはり)


アリエルは、はっきりと悟った。


(私が進めば進むほど、

周りが危険に晒される)


一瞬、迷いが胸をよぎる。


だが――

すぐに、消えた。


彼女は、黒鴉の血の滲む肩を見る。


「手当てを」


「後でいい」


黒鴉は首を振る。


「それより……

君はどうする?」


問い。


止まるか。

手を緩めるか。

“少しだけ”穏健になるか。


アリエルは、静かに答えた。


「やり方を変える」


一同が、息を呑む。


「切るのを、やめるわけじゃない」


彼女は、因果の糸が見える視界で、王宮全体を見渡す。


「切る前に、逃げ場を潰す」


黒鴉の口角が、わずかに上がった。


「ほう」


「世界が“偶然”で殺しに来るなら――」


アリエルは、はっきりと言った。


「“偶然が起きない状況”を作る」


ローレンが、笑う。


「相変わらず、無茶だな」


「ええ」


アリエルは微笑んだ。


「でも、無理じゃない」


因果が見える。

切れる。

ならば――編み替えることもできる。


石像の破片を踏み越え、彼女は歩き出す。


事故は失敗した。

だが、世界は諦めない。


そして――

アリエルも。


この静かな王宮で、

見えない戦争が、確実に始まっていた。

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