表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お義母様、それは私が殺しましたが、何か問題でも?〜復讐完遂令嬢は次の人生を無双する〜  作者: 和三盆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/63

第37話:封印の扉は、母の名を呼ぶ

王宮の地下は、昼でも夜でも同じ匂いがする。

石と湿気と、長い時間。


アリエルは松明を掲げ、古い回廊を進んでいた。足音が反響するたび、過去がこちらへ歩いてくるような錯覚に襲われる。背後にはセリオン、ローレン、そして影のように距離を保つカイ。黒鴉の姿はないが、その不在がかえって気配を濃くしていた。


(ここ……母が辿った場所)


旧貯蔵庫は、王宮の設計図からすら削除された区画にあった。

扉は分厚く、錆びついた鉄製。だが――錠前だけが不自然なほど新しい。


「最近、誰かが触ってる」

ローレンが低く言う。


「ええ。しかも、王家の鍵じゃない」


アリエルは銀の小札を取り出した。月光の下で見た刻印が、今は松明の火に照らされて淡く光っている。扉の中央、円形の窪みにそれを当てると、かすかな振動が伝わった。


――カチリ。


重い音とともに、錠が外れる。


その瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。

理由はわからない。けれど確信があった。


(……ここから先は、もう“知ってしまう”)


扉の向こうは、想像以上に広かった。

倉庫というより、隠された書庫と祭壇の中間のような空間。壁一面に並ぶ木箱、封印布、古文書。そして中央に、ひときわ異質なものがあった。


石の台座。

その上に置かれた――水晶棺。


「……棺?」


ローレンの声が、乾いた。


透明な水晶の中には、何も入っていない。

空のはずなのに、そこに“誰かがいた”感覚だけが、肌にまとわりつく。


セリオンが息を呑む。


「これは……禁呪の保管具だ。

魂、記憶、因果……“存在の一部”を封じるための」


アリエルの指先が震えた。


(母は……これを?)


そのとき、背後で――拍手が響いた。


「さすがだ、アリエル。ここまで辿り着くとは」


振り返ると、闇の境目から黒鴉が姿を現していた。

いつも通りの黒衣、赤い瞳。だが今夜は、その声にわずかな“疲れ”が滲んでいる。


「黒鴉……!」

ローレンが一歩前に出るが、アリエルが手で制した。


「答えて。

この棺は何? 母は、ここで何をしたの?」


黒鴉は一瞬、目を伏せた。

そして、ゆっくりと言った。


「君の母は――“自分自身の一部”を、ここに封じた」


空気が凍る。


「なに……を……」


「完全な死を避けるためだ。

彼女は、ある真実を知ってしまった。王家と国外、そして“因果そのもの”に関わる真実を。

それを知った者は、必ず消される」


黒鴉は水晶棺に近づき、そっと触れた。


「だから彼女は選んだ。

自分の存在を分け、片方を捨て、片方を未来に託すことを」


アリエルの喉が、うまく動かない。


「……それが、私?」


黒鴉は頷いた。


「君は偶然生き残ったんじゃない。

君は――彼女の“継承体”だ」


その言葉が落ちた瞬間、世界が反転した。


復讐も、因果断絶も、嘆きの書記官との契約も。

すべてが、一本の線で繋がっていく。


(だから私は……

だから“戻された”……?)


水晶棺が、淡く光り始めた。


「封印が、反応している……!」

カイが警戒を強める。


黒鴉がアリエルを見る。

その視線は、初めて“選別”ではなく、“願い”を帯びていた。


「アリエル。

この封印を解けば、君は真実を知る。

だが同時に――君はもう、普通の復讐者ではいられなくなる」


「代償は?」


「世界が、君を放っておかなくなる」


静寂。


アリエルは水晶棺の前に立った。

指を伸ばせば、すべてが変わる。


ローレンが、掠れた声で言う。


「……無理に背負わなくていい。

君が選ばなくても、俺は――」


「いいえ」


アリエルは、はっきりと言った。


「私はもう、選ばされる側じゃない」


彼女は、水晶棺に手を置く。


「母が残したものなら、受け取る。

それが呪いでも、光でも」


水晶が強く輝いた。


その光の中で、アリエルは“声”を聞く。

懐かしく、優しく、そして――泣きそうな声。


『……生きなさい。

私の分まで』


涙が、一滴だけ落ちた。


そして――封印が、解け始める。


王宮の地下で、静かに、確実に。

世界の歯車が、また一つ、音を立てて回った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ