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お義母様、それは私が殺しましたが、何か問題でも?〜復讐完遂令嬢は次の人生を無双する〜  作者: 和三盆


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第33話 ――ローレンの軍靴が鳴るとき、心は逃げ場を失う

王宮前の石畳は、朝霧を吸い込んで薄く白んでいた。

夜明けの冷たい空気が、まだ血と煙の気配をわずかに残している。


アリエルが大階段を降りると、南門の方から規律正しい行進音が近づいてきた。

硬質な音――けれど耳に触れる印象は、どこか柔らかい。

彼の軍はどうしてか、荒々しさより整然とした清潔さを纏っている。


(ローレン……来てしまったのね)


城下の霧の向こう、軍旗の紋章がゆらりと揺れる。

エヴァンズ家の白銀色。

朝日に照らされてきらめくそれは、どこか彼自身の雰囲気に似ていた。


先頭の馬が止まり、騎乗したローレンがアリエルを見つける。

瞬間――視線が絡み、空気がきしむ。


「アリエル……無事でよかった」


声は震えていなかったが、それが逆に危うかった。

押し殺しすぎて、感情の底の方が透けてしまっている。


アリエルはゆっくりと彼に歩み寄る。


「来るべきじゃなかったわ、ローレン。今の王都は……危険よ」


「危険だから、来たんだ。

君が戦場にいて、俺が来ない理由なんてひとつもない」


(やっぱり……こうなるのね)


彼の頑なさは知っていた。

それでも、胸が苦しくなるほど強い言葉だった。


そのとき――

背後からセリオンが歩み寄る。

騎士団長の威厳と、アリエルを守ろうとする気迫を纏って。


「アリエルは王宮防衛の要だ。軽率に“保護”するなど許さない」


ローレンは一歩も引かない。


「保護じゃない。彼女は俺の……大切な人だ。

危険に晒すことが正しいわけがない」


「大切な人、ね」

セリオンは低く笑った。「それは、彼女の意思か?」


言葉の刃が交差した瞬間、空気が張りつめた。

兵たちが息を呑み、霧が揺れる。


アリエルは二人の間に立ち、手を広げる。


「やめて。二人とも、私は“所有物”じゃないわ」


ローレンの目が揺れた。

その揺れは痛みであり、願いであり、諦めの気配を孕んでいる。


「……わかってる。わかってるんだ、アリエル。でも……どうしても怖いんだよ。

君が、また傷ついて、戻って来なくなるんじゃないかって……」


声は小さく、誰よりも素直だった。

アリエルは胸を締めつけられる思いがした。


そんな彼の感情は前世でも見たことがない。

いや――前世では、彼が本心を隠していただけなのかもしれない。


「ローレン。私はもう、逃げるわけにはいかないの。

あなたの気持ちは……嬉しい。でも……」


「でも、国を選ぶ?」


少しだけ意地悪な問いだった。

けれど、その問いは、今のアリエルの痛いところをまっすぐ突いてくる。


アリエルは言葉を飲み込んだ。

そう――どちらも選べない。

まだ心が決まっていないから。


沈黙が流れたそのとき、王宮の伝令が駆け込んでくる。


「アリエル様、急報!

セリュスが倒れた影響で、王都南端の“影兵”が暴走を始めています!」


ローレンの表情が一変する。


「影兵……セリュスの異能兵か!」


セリオンが剣に手をかけた。


「アリエル、向かうぞ。彼らは主を失って制御不能だ。早く抑えないと被害が広がる」


アリエルは迷わなかった。


「わかった! すぐ行くわ!」


するとローレンが手綱を引き、馬を降りると、まっすぐアリエルの手を取った。


「……行くなら、俺も行く。

君がどんな道を選ぼうと、俺はその隣にいる。

それだけは……選ばせてほしい」


アリエルの心が、ふっと揺れた。

その揺れは恐怖でも、戸惑いでもなく――

温かさに近い何か。


(ローレン……あなたは本当に、変わったのね)


そしてセリオンが冷静に一歩踏み出す。


「どちらにせよ、戦力は多いほうがいい。

ただし、アリエルの指揮に従え。ここでは彼女が“判断する者”だ」


ローレンは頷いた。


「もちろんだ。彼女なら、俺は命を預けられる」


アリエルは二人の視線を受け止め、深く息を吸った。


「行くわ。影兵の暴走を止める。

私の手で、この夜を本当に終わらせるために」


霧が晴れ、朝日の光が王都の屋根を照らし始める。

その光の中を――アリエルと二人の男、そして王国の未来を背負った者たちが走り出した。


駆ける足音が響くたび、アリエルは思う。


(この物語は、もう“復讐”だけじゃない。

誰かと未来を選び取る――そんな物語へ変わり始めている)

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