第五話 花粉を溶かす!? 秘湯の誘惑
「……もう、薬もらって普通に治療しよ?」
「……紗季……その前に……これだけは……!」
週明け、教室の片隅でまたもや謎のパンフレットを握りしめる祥子の姿があった。
『奇跡の花粉症治癒温泉! 一度浸かれば鼻が通る! 目がかゆくない!』
「……祥子、それ絶対効かないって……。ていうか、どこの温泉?」
「〇〇県の山奥……電車で4時間、バスで2時間……」
「遠いな!!」
しかし、祥子の決意は固かった。
「ここで終わらせるの……! 今年こそ……!」
週末。
例によって紗季を道連れに、祥子は温泉地へ向かった。
乗り継ぎを繰り返し、揺られ続けること6時間半。
たどり着いたのは、人里離れた山間の小さな温泉宿。
看板には大きくこう書かれていた。
『花粉症の湯』
「名前そのまんまじゃん……絶対怪しいって……」
紗季のツッコミも、祥子には届かない。
宿のおばあちゃんに案内され、二人は小さな露天風呂へ。
湯気の中、ほのかに硫黄と薬草の香りが漂う。
「ほら、入ってみ。鼻が通るでな。」
おばあちゃんはニコニコしている。
「いくぞ、紗季……!」
「私は普通の温泉だと思って楽しむから……。」
湯に浸かった瞬間――
「……んんん!? なんか、鼻が……あ、通ったかも!?」
確かに、熱い湯気で鼻の通りが良くなる。
薬草の香りも相まって、目のかゆみも少し和らぐような……。
「ほら見て! 見て! 私、今だけ花粉症治った人みたいだよ!!」
「……いや、それ湯上がったら普通に戻るやつでしょ……」
案の定、風呂上がり30分後。
冷えた空気に晒された祥子の鼻は、すぐに花粉に降伏した。
「……はっ……はくしょんっ!! ずびずび……」
「だから言ったのに……」
「で、でも、ちょっとだけ……幸せだった……」
「もう観念して薬もらおう……帰りに耳鼻科寄ろう……」
「……うん……。」
帰り道。
温泉帰りの祥子の鼻は赤く、目はとろとろ、でもどこかスッキリした表情だった。
「……結局……民間療法では花粉に勝てなかったけど……」
「当たり前だろ……。」
「でも、こうやっていろいろ試したから……思い残すことはない……!」
「……よし、じゃあ来年は最初から病院で注射打とうな。」
「はい……。」
春の終わり――
祥子はついに病院で専門治療を受け、薬で花粉症をコントロールできるようになった。
ティッシュの山も、鉄仮面マスクも、謎の民間療法師も、すべては彼女の思い出となった。
――だが、夏の草花が咲き始めた頃。
「……あれ……くしゃみ出る……?」
まだ彼女の鼻は完全勝利を得ていない――。
〜完〜




