第一話 くしゃみ三連発の春が来た
「……は、はっ、はくしょんっ!!」
三月、桜のつぼみが膨らみ始めたその日。
教室の隅で、安住祥子はティッシュの山に埋もれていた。
「あー、また出た。大丈夫、祥子?」
同じクラスの親友・桐山紗季が心配そうにハンカチを差し出す。
祥子は鼻を真っ赤にして、ふがふが言いながら答えた。
「だいじょうぶ……くない……。今年こそ克服するって決めたのにぃ……っ!」
祥子は小学校の頃から筋金入りの重度花粉症だ。
春先はもちろん、秋も少しだけ症状が出るオールシーズン対応型。
あらゆる市販薬、漢方、蜂蜜療法、ヨーグルト、鼻うがい、甜茶――
思いつく限りの花粉対策を片っ端から試しては玉砕してきた。
「だってさ、ニュースで言ってたもん! 腸内環境を整えれば免疫が云々って……」
「それ、去年も言ってヨーグルト10種類食べてお腹壊してたよね」
「…………。」
言い返せない。
放課後。
祥子は近所の薬局に駆け込んだ。
目当ては、薬剤師の花粉症相談コーナーだ。
「去年より症状がひどいんです! もう、鼻水で教科書が溶けそうで……!」
「なるほど……。アレルゲンの量が多い年ですからねぇ」
白衣のお姉さんは慣れた手つきで目薬と点鼻薬を差し出した。
「でも薬じゃ根本解決にはならないんですよね……! 私、薬に頼りたくないんです!!」
「ええっと……そうですね。では、今年こそ免疫療法を本格的に……」
「それも考えたけど……高いし時間かかるし……(泣)」
ああ、今年も花粉と戦う春が始まる。
祥子の目にうっすら涙が滲んだ――いや、それは花粉のせいだった。
「こうなったら……最後の手段しかないっ!」
家に帰った祥子は、自室の机に並べた健康雑誌の山を叩いて宣言した。
「怪しい健康法でもなんでもいい……! 試せるものは全部試してやる!!
花粉症を、この私が人類史上初めて根絶してみせるんだからーーっ!」
かくして、祥子の『ありとあらゆる健康法総当たり大作戦』が幕を開けた。
今年も桜は咲く。花粉も舞う。
くしゃみと鼻水と涙の、その先に……ほんの少しの希望はあるのか!?