林間学校の肝試し
私たちの学校は昨日から林間学校に来ていた。行先は隣の県の山の中にある小さな施設だ。
バスで三時間ほどかけてようやく着いた施設は昔の学校、ということだった。
校舎と思わしき建物は木造でかなり古めかしい。私たちが実際に宿泊するのは校舎の隣にある、こちらはコンクリート製の施設だった。よかった、あんなボロボロの建物で過ごすのかと思った。
林間学校には色んなイベントが用意されていて、バスの中ではカラオケ大会、到着したらみんなでカレーを作り、夜はキャンプファイアーがあるらしい。二日目は川で鮎獲りをして、夜は肝試しだって。もしかしてあのボロい校舎でやるのかな・・・
バスを降りると部屋に荷物を持っていく。二泊なのでそれほど大きな荷物ではないけどこんなお泊り会は初めてなのでとてもワクワクした。バスの中でのカラオケも大盛り上がりだったし、同じ部屋にはクラスの友達が三人いて、みんなテンションが高い。
「由美子、林間休みらしいよ。インフルで」
「マジでー? めっちゃ楽しいのにね」
「ねぇ、次の集合時間何分だっけ?トイレ行く時間ある?」
「十一時ちょうどに下に集合でしょ」
「あと二十分あるからトイレ行ってくるね」
「あ、私もー」
みんなで作ったカレーは美味しかった。外で食べたらなおさらだ。別の班はお米を担当していた男子がお米を忘れたせいでライス無しのカレーになるところだったのが、各班から少しづつご飯をもらってなんとかなる、というトラブルもあったけど、そういうのもこういうイベントの醍醐味だと思う。
夜はキャンプファイヤーを囲んでみんなで歌い、それからお風呂に入って部屋でトランプをして二十二時に消灯。電気が消えた部屋の中で恋バナをして、盛り上がった。
一人、二人と寝息に変わり、私もとろん、として泥のように眠ってしまった。
翌日はみんなで川で遊んだ。鮎を掴まえて塩焼きにし、みんなで食べた。鮎を食べたのは初めてだったけど、すごく美味しい。林間学校ってめちゃくちゃ楽しいじゃん!
そうして、夜の肝試しだ。やはり最初に見た古い校舎でやるんだって。
「あの校舎は戦争の前に建てられた学校だ。兵隊さんもいたらしいぞー」
担任の先生がそんなことを言うと生徒はみな震え上がった。肝試しのコースは
廊下を真直ぐ進み、階段を一つ上がった先の部屋にあるカードをとって、別の階段で降りて反対側から出ればゴールらしい。
二人一組で順番に生徒が出発する。私は波多野さんとペアらしい。波多野さんは同じクラスだけど、あまりしゃべったことが無い。部屋割りも別の部屋だった。どうせなら頼りになりそうな男子とペアが良かったけど変な男だとイヤだしなぁ。
「次、桃井、波多野」
先生が私を呼ぶ声がした。「はい」と返事をし、私と波多野さんは出発した。波多野さんと右手を繋いで反対の手には懐中電灯を持って進んだ。怖がりな私は蛾が飛んだだけで悲鳴を上げ、窓ガラスが風で音を立てる度、波多野さんにしがみついた。
どうにか肝試しを終え、部屋に帰った私は同室の友達と「肝試しどうだった?」と話をするとみんなゲッソリしていた。真里佳のペア相手は男子だったらしいんだけど、途中で手を振りほどいて自分だけで行ってしまったらしい。ひどい男ね!
その日の夜、みんなが寝静まった時にふいに身体が重くなった。いや、動かない。
『金縛り』という単語が頭を過ったが、声も上げることができなかった。
私は気合で「えい!」と拳を正拳突きのように突き上げ、金縛りを振り払った。
「ふう~」
私はびっしょり汗をかいてしまったけど、すごく疲れてそのまま眠ってしまった。
林間学校は無事終わり、私たちは日常に帰った。
私は美術部に所属しており、毎日放課後は美術室で絵を描いているんだけど、どうも最近右肩が重い。部活の頑張りすぎかしら、と思いつつ、家で母に相談をしたら整骨院を勧められた。
私は母に勧められた整骨院に行くと、五十代くらいの受付の女性が私を見るなり、立ち上がり、私をぐいぐいと建物の外に押し出した。
「え? 私何かしましたか?」
私が意味もわからず尋ねると女性は言う。
「そんなものを連れて来ないでくれ。お嬢さんの右肩に憑いてるよ」
「え!? 右肩?」
私は驚いて右肩を見るけど当然何も見えない。私は背筋がゾクゾクして、慌てて家に帰った。
慌てて家に帰った私は母に整骨院でのことを相談した。すると母は
「あそこのおばちゃん、霊感が強いらしいからねぇ。あんたもどこでもらって来たんだか」
そう言われて、思い当たるのは林間学校だった。
翌日、学校で波多野さんに聞いてみた。
「波多野さん、林間学校の肝試しの後から変わったこととか無い?」
波多野さんはキョトンとした顔で言った。
「え? 私、林間学校インフルで休んだけど」