3話:BL抜きで男としてみる努力
お土産ショップで一番最初に目についたものを手に取る。着物を来た長い毛糸の髪の毛がついた若干不気味…ではあるけど、顔は可愛い人形を静海に見せる。
「静海、さっきのお化け屋敷で出てきたキエコさん人形だって!」
「ふーん」
静海は興味がなさそうに、ポケットに手を突っ込んだまま、冷たい目でキエコさんを見ていた。
(……あ〜どうしよ、これはやっぱり怒ってる)
さっきのアイスの時の発言は完全にアウトだった。
「連くんならこうするかな」なんて、BL脳フル稼働で発言したことを、今さらながら後悔している。
ごめん、マジで。口が勝手に動いたんだ。
不機嫌な静海…キエコさんの何倍も怖い。
ショップを出るともう少し日が傾き始めていて、真っ赤な夕日が見えた。
何かアトラクションとか乗って…でもコースター系とかお化け屋敷以外…。静海が苦手そうなやつは絶対避けたい。
必死にパンフレットを凝視していると、『カップルに大人気、夜景・夕日もおすすめ』という吹き出しが観覧車の写真から飛び出していた。
「ね、観覧車乗ろっか」
気まずい空気を変えようと、私は強引に観覧車を提案した。
静海は一瞬迷った顔をしたけど、黙ってうなずいた。
観覧車のゴンドラにふたりで座る。
ほんのりオレンジ色に染まっていた。
その瞬間ふと、記憶が蘇ってきた。
「あれ……私、観覧車……」
背筋がすうっと冷える。
と同時に、ニコニコのお姉さんが観覧車のドアを締めて、ゆっくりと動き出す。
高いところ無理だった気がする。
ジェットコースターは基本前しか見ないし、スピードで気にならなくなるけど、こうしてゆっくり登っていくと、じわじわ実感する。
視界がどんどん高くなる。下を見ると、小さな人や建物がミニチュアみたいで——
「……うわ、無理かも」
「やっぱり。克服したのかと思ったけど、忘れてただけか」
「うう…ごめん。せっかく、かっこいい攻め様のエスコートしようと思ってたのに……」
力なく呟くと、ぶはっと笑い声が聞こえて、思わず顔を上げる。
声を上げて笑う静海を見ると、肩の力が少しだけ抜けた気がした。
「今日の俺、ずっとそれだよ」
「え?」
「彼氏っぽくリードしたかったってことでしょ?俺なんてジェットコースターは朱音のほうが余裕そうだったし、お化け屋敷も手ぇ繋いでもらったし」
静海が困った時に前髪を触るのは癖だ。
「俺、ダサすぎ。……でも、朱音が楽しそうにしてたから、いっかって思ってた」
「え、ちょっと、それ可愛くない?惚れるんだけど」
「……惚れてもらうためにデートしてるんだけど…。可愛いは不本意」
不意打ちの言葉に、心臓が跳ねた。
静海がすっと立ち上がり、ゴンドラが揺れる
「ちょっと!静海!?立ち上がんないで!!」
「俺、さっきの怒ってんの。だからちょっと我慢しろ」
鬼!!
私が目をつぶってやり過ごそうとしていると、隣に静海が座ったのが分かった。
そっと目を開けて静海のほうを見る。
静海がふっと笑って、自分の着ていた上着をそっと私の頭にかぶせた。
「外、見えなきゃいいんだろ」
視界がふわっと暗くなった。
静海の匂いがする。心なしか、温かい。
……なんだろ、やば、落ち着く……
「……ねえ、静海」
「ん?」
「泣き顔も悪くなかったけど、今日の笑ってる顔のが良かったかも」
「……うるせえよ、バカ」
顔は見えないけど、声の調子で多分笑ってる。
無事に観覧車から降りて、ダラダラと遊園地の出口に向かって歩く。
日が落ちて、ライトがちかちかとつき始める。
「なあ、朱音」
「ん?」
「俺、お前に“攻め”だとか“受け”だとか、そういうのじゃなくてさ」
「うん」
「ただ、お前にとって“好き”って思わせたい」
立ち止まる静海の顔は、サッカーの試合前と同じくらい真剣だった。
「……俺、朱音が好きだから」
「私も、静海のこと、好きではあるけどな」
「……変顔しながら言われても…」
「変顔って!私、今、BL抜きで、静海を男として見る努力してんの!」
「まじか、大進歩だな」
「だよね!!」
もし、静海のことを、男の人として好きになれたら、幸せなのかもしれない…と本当にそう思った。