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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
小話

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私の推し活 1

 広いホールに響き渡る拍手が鳴りやまない。


 感動の嵐に包まれ、この会場の観客、皆が一体となっている。手が痺れんばかりに拍手している私も、そのうちの一人だ。


「皆さん、本日もお越しいただきありがとうございました」


 芝居を終えたセリーヌが挨拶をすると、ホール全体によりいっそうの拍手と歓声が鳴り響いた。

 この地域だけ、地面が揺れているんじゃないのかしら? そう心配になるぐらい。


 しかし、今日のセリーヌの舞台も最高だった。

 内容は義母と義姉にいじめれて生きるもたくましく、最後には王子様と結ばれる王道のストーリーだった。


 セリーヌの台詞回しに立ち振る舞い、スッと通る声に、なによりも表情豊かに表現するものだから、人々はその魅力にひきつけられるのだ。そして可愛い! これに尽きる!! 性格も素晴らしい人物だと友人である私は知っている。


 私は毎日、この劇場に通っている。

 劇場主ゼロニスのおかげで、私は顔パスとなっている。だがビップ席には座らず、毎回一般客の席に座っている。毎回、ビップ席を占領するのは気が引けるし。さすがにセリーヌも私が毎日、それもひどいと朝晩の二回、舞台を見に来ていると知ったら、引くかもしれない。


 そうよ、私はこっそり応援しているわ。これぞ私の推し活ライフ。


 出演者たちの挨拶が終わり、皆が帰り始めた頃、私もそっと席を立った。


 ***


「どこへ行っていた」


 ロンバルディ家の屋敷に着き部屋の扉を開けると、眉間に皺を寄せて出迎えた人物がいる。


――ゼロニスだ。


 部屋で私の帰りを待っていたらしい。


 どうしたと言うのだろう。両腕を組み、指をトントンと打ち付ける姿は不機嫌オーラ全開だ。


「ど、どこって……」


 ゼロニスはここ最近、執務で忙しい。邪魔してはいけないと、セリーヌの所へ行くとフォルクに告げて出てきたはずだけど。


 忙しくて聞いていなかったのかしら。


「劇場ですよ、いつもの。セリーヌに会いに行ってきました」


 そもそも私が出かけるとすれば、劇場しかないのはゼロニスも知っているだろうに。


「その手に持つのはなんだ」

「あ、これですか」


 ゼロニスは私が持っていた物に興味を示した。いいでしょう、見せてあげましょう!


 私は手にしていた袋をガサゴソと漁り、テーブルの上に並べた。


「新しいグッズです、セリーヌの!!」

「……」

「これが、今回のお芝居の中でセリーヌがつけていたのと同じデザインの髪飾りです。蝶がモチーフで可愛いでしょう? こっちは限定の鏡で……なんと!! セリーヌのサインが入ってるんですよ!!」


 収集した推しグッズを興奮しながら説明する。


「待て」


 ゼロニスは私を手で制し、悲痛な面持ちを浮かべた。


「もしや、部屋にあるガラクタの山は――」


 ゼロニスは部屋中にグルッと視線を投げた。


「ひどい! ガラクタってなんですか! 宝物ですから!!」


 私の推しグッズが着々と増えていることを、ゼロニスは非難しているのだろうか。


「それに安心してください。これはきちんと私がロンバルディ家で働いた時の賃金で購入していますから」


 無駄遣いをしていると責められたくはない、私は噛みついた。私の趣味だ! 好きに使わせて欲しい。


「いや、別にそういうことを言っているのではない」

「えっ、あっ、そ、そうですか……」


 意外にもゼロニスは冷静だったので、私は一瞬で我に返った。


 最初は装飾品が飾られていたアンティーク家具に、いつしか推しグッズが鎮座し、装飾品たちはクローゼットの奥に追いやられたことは責めないのね。

 天蓋つきレースベッドの枕元に、いつからか私の手作りの押しうちわが差さっていても、部屋の景観を損ねるとか文句は言わないのね。


 ゼロニスはなにかを言いたげに私に視線を向ける。いったい、どうしたのだろう。私に用事でもあるのだろうか。


「――昼食は食べるのだろう?」

「あ、それが劇場で軽くいただきました」


 軽食を扱っているのでセリーヌの芝居が終わったあと、食べて帰ってきた。


「大丈夫ですから、私のことはお構いなく」


 ゼロニスはここ最近、とても忙しいと聞いている。邪魔してはいけない。

 微笑んで伝えた私を、ゼロニスは目を細めた。


「もしかしてまだ食べていないのですか?」


 それはいけない。きっとお腹が空いたことだろう。


「早く食べた方がいいですよ」


 ゼロニスからどことなく不機嫌さを感じるのは、きっと空腹だからいらだっているのだろう。


「午後に紅茶をお運びしますから。ささ、ダイニングに向かってください」


 紅茶と聞いたゼロニスの頬が少し上がるのを確認し、部屋を出たゼロニスを見送った。


***


 そして午後、紅茶セットを準備し、ゼロニスの執務室を訪ねた。

 ノックを三回するとフォルクが顔を出す。


「お待ちしておりました、ラリエット様」


 カートを押して部屋の中に進む。


「遅いぞ」


 椅子に座って腕を組み、ゼロニスはふんぞり返っていた。


 え、いつもと同じか、少し早く準備してきたのだけど……。


 時計に視線を向けると、言うほど遅くはない。むしろ、早めの時間だ。


「少し前からソワソワしておりましたので、ラリエット様が来られるのを心待ちにしていたのですよ」


 フォルクが小声で教えてくれた。

 なんだ、楽しみにしてくれていたんじゃない。

 それならば私も張り切って美味しい紅茶を淹れましょうか!


「どうぞ」


 ソファに移動してきたゼロニスに淹れたての紅茶を差し出す。


 癒される香りにゼロニスは頬をほころばせた。フォルクは気を遣ってなのか、退室した。


 私も同じ紅茶をいただき、ホッと癒される時間だ。

 同じ部屋で二人、向かい合って時間を共有できるなんて嬉しい。最近のゼロニスは忙しいらしく、執務室にこもる日々が多かった。その間、私は推し活に目覚め充実し、なおかつ忙しかった。


 でもやはり、趣味があると生活に潤いが出るわよね。


「明日はなにをしている?」


 うんうんとうなずいているとゼロニスから声がかかる。


「明日ですか?」


 私は興奮のあまり頬が熱くなってくる。


「それが聞いてくださいよ! 明日は新作の舞台発表なんです!」


 そう、明日という日を心待ちにしていた。


「絶対、満員御礼ですから、早めに行って並びますわ」

「…………」

「ああ、次はセリーヌ、どんな姿を見せてくれるのかしら。想像するだけで胸がワクワクします。今までは芯の強い役を演じることが多かったのですが、前々回演じた悪女! あの役もすごく反響があって、素晴らしかったですわ。きっとセリーヌは何でも演じることができるのかも!」


 興奮気味に語る私をゼロニスは冷めた目で見ている。


「一番のファンとして、私だけ楽をするわけにはいきませんからね! 皆と同じで朝から並びますわ!」


 特別扱いを求めているわけではないので、並ぶのも苦にはならない。

 ゼロニスは紅茶のカップを静かにテーブルの上に置き、足を組んだ。


「今からとっても楽しみで、今日は眠れそうにないかも!」


 はしゃいで語る私。ゼロニスは頬杖をつき、ジーッと見ている。

 呆れたような視線はなにかを言いたそうだ。


「お前に一つ、問題だ」

「はい?」


 唐突な声かけに声が裏返る。


「――最後に俺と過ごした時間はいつだった?」

「えっ……?」


 質問に目をパチクリとさせた。


「最後って……」


 今も一緒に過ごしているじゃない。そういうことを言っているのではなくて?


「えっと、昨日も夕食は一緒でしたよね?」


 その前日は忙しかったらしく、夕食は別だったな。でも紅茶は運んだ記憶があるし。前々日、ゼロニスは視察に出かけていたいので会っていないし……。


 考えているとゼロニスは髪をグシャリとかき上げた。


「まったく、口を開けばセリーヌ、セリーヌ、セリーヌとばかり……」


 ゼロニスの口調はいらだっている。


「お前は俺と過ごす時間よりも、芝居を観ている方が大事なのか?」


 え……。


 目をぱちくりとさせた。


 今、なんて言った?


 斜め上の発言に驚きすぎて言葉が出なかった。

全3話の予定です。

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