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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第六章 対決

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 あまり眠れずに朝を迎えた。出された朝食も喉を通らなかった。

 街が活動を始める時間を迎え、外が騒がしい。どこでも開店準備をしているのだろう。


「十時の船で出航するからな」


 そんなに早い時間に……⁉

 フレデリックは機嫌よく喋る。


「隣国に行って、どうするつもり?」

「ああ、お前はなにも心配しなくてもいい。母の親戚のつてもあるんだ」

「お義母さまの……?」

「ああ、そうだ」


 こいつはバカなのか。いや、バカだと前から知っていたが、ここまでくると本物だ。


 胸に怒りがわきあがる。


 フレデリックが私に執着するので、私を疎ましく思っている義母。義母の息がかかった親戚にフレデリックは身を寄せるつもりだというが、そんなのすぐに連れ戻されるに決まっている、メイデス家に‼


 メイデス家に戻されるのは、バッドエンド中のバッドエンド。


 そして今度こそ、義母は私のことを許さないだろう。屋敷に監禁されるか、はたまた息子可愛さのあまりに、私のことを――


 考えなしのフレデリック、怒りで目の前がクラクラしてきた。

 胸がドクドクと大きな音を出し、手に小刻みな怒りがくる。もう我慢できない。


「私、行かないわ‼」


 そう、大人しくして様子を見ていたけど、限界よ。どこまでも自分本位な甘い考え、そもそもフレデリックと逃げた時点で私には地獄が待っているじゃない。


 私は立ち上がって走り出し、バルコニーへと続く扉を開けた。

 風が頬をさすり、街の喧騒が聞こえる。


「なにをしているんだ、こっちにこい」

「嫌よ‼」


 ここは二階だが、どうにかして下りたい。飛び降りるのは無理だけど、バルコニーを飛び越えて隣の屋根に移動すれば――


「ラリエットくるんだ」

「近寄らないで‼」


 手を伸ばして近づいてくるフレデリックが、私の声にビクッと肩を揺らす。


「いつだって自分勝手で私の意見を聞いていない。でもね、これだけは出会った時から変わらないわ‼」


 息をスウッと吸い込み、腹の底から声を出す。


「あなたのことが大嫌い‼ 粘着質の変態‼」


 フレデリックの頬が引きつったのを見届けると、バルコニーの手すりに足をかけた。


 ここから上手く、逃げ出して見せる。この高さなら、最悪死にはしない。

 自分の身体能力にかけるわ‼


 手すりを蹴り、隣の屋根へと移った。

 やった、上手くいったわ、屋根を走り出した時、足首をグキッとひねった。


 痛っ……‼ 


 バランスを崩し、屋根から転がり落ちた。つかまる物もなく、宙をかいた。


 このままじゃ、下に叩きつけられてしまう。


 嫌だ、死にたくない、ゼロニス……‼


 痛みを覚悟してギュッと目を閉じた時、強い力で全身を包まれた。


 あれ、痛くない……? どうして?

 それにこの香りは……? 鼻をスンと動かし、懐かしい香りにおずおずと瞼を開ける。


 太陽の光がまぶしくて目を細めた。


「お前はなぜ屋根から落ちてくる!?」


 今、一番会いたかった人の声が聞こえ、目を見開いた。


「ゼロニスなの?」


 おずおずと手を伸ばし、頬に触れる。


「バカめ、他に誰がいると思っている」


 焦った声を聞くと胸に安心が広がり、なにも言えずに泣き出してしまった。


「怖かったのか? もう大丈夫だ」


 ゼロニスは私をギュッと抱きしめた。温もりをゼロニスが与えているのだと思うと、涙が止まらなかった。


「どうしてここにいるの」

「視察先にバーデン家の娘の使いが来て、事情は聞いた」


 セリーヌがこの状況を伝えてくれたんだ。ホッと安堵すると、ゼロニスは指で私の涙をそっとぬぐう。


「感動の再会を楽しみたいところだが、少し待っていろ。やるべきことがまだ残っている」


 ゼロニスの顔を見た瞬間、ヒッと喉の奥から声が出そうになる。


 怒気を背負い、全身が怒りのオーラに包まれていた。視線の鋭さで人を殺めることができそうなほどだ。


 ゼロニスがバルコニーへ視線を移すと、フレデリックと目があった。

 フレデリックはハッとして見開いた目を、さまよわせ始めた。


「――二階か」


 ゼロニスは側で控えていたフォルクに私を任せると、二階へ向かう。


「安心してください、この宿は包囲されております。逃げられません」


 周囲を見ればロンバルディ家の騎士と思わしき人物が宿を囲うようにして立っている。

 一人で二階に向かったゼロニス。そこで私はビアンカのことを思い出す。


「いけない、ゼロニスを止めなくちゃ」


 ビアンカも敵として害してしまったら困る。それにフレデリックだって大っ嫌いな奴だけど、命を奪うとなれば、さすがに後味が悪い。


「二階に行きましょう‼」


 私の表情を見て察したフォルクも強くうなずいた。フォルクと私、あと護衛を数名連れて二階に向かう。


「ゼロニス‼」


 扉を開けるとゼロニスとフレデリックが対峙している時だった。

 フレデリックは真っ青な顔で小刻みに震えていた。


「きたのか」


 ゼロニスはため息をついた。


 ええ、来ますとも‼ あなたの処罰が恐ろしくて、ほおってはおけませんでしたから。

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