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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第五章 戻ってきたロンバルディ家

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 久しぶりに見たフレデリックは癖のある長めの髪を一つにまとめ、垂れ気味な目を細めて笑っている。


 世間では好青年とイメージを抱く人もいるが、私の中では義妹をのぞき見する変態下劣野郎だ。この見た目に騙されちゃいけない、むしろ執着心が強めでぶっ飛んでいる異常者。


 世間での評判は良かったが、私にだけ見せる執着がいつも気持ち悪いんだよ‼ 


 それは今も変わらないし、少し離れた時間があったことで、こんなに気持ち悪かったかしら? と思うぐらいに私の中で嫌悪感が増している。


「本当に来たんだね」


 フフッと肩を揺らして笑うフレデリックだが、あなたが呼びつけたんじゃないの。

 怒りが込み上げ、罵倒したくなるがグッとこらえた。


「セリーヌはどこ」


 私はフレデリックをキッとにらんだ。彼は悪びれもせず、ヘラヘラと笑う。


「久しぶりに会ったのに、開口一番がそれか」


 当たり前だろう、あなたに用はない。


 どうして私を呼び出したの? セリーヌを本当に連れて行ったの? そもそもあの手紙はどうやって私の部屋に置いたのか。もしかしてロンバルディの屋敷に忍び込んだの? 厳重な警戒の目を潜り抜けたとは思えない。


 疑問が次々と頭に浮かぶが、一番大事なのはセリーヌだ。


「セリーヌは? 彼女の行方を知っているの?」


 ごくりと喉を鳴らし、フレデリックをジッと見つめる。ささいな嘘も見抜けるように、彼の行動に細心の注意を払う。


「まあ、そんなに焦ることはないよ」


 フレデリックはフフフと笑う。余裕な笑みが憎たらしい。こいつはいつもそうだ。私が困った姿を見て頬を染めるような奴だ。


「まあ、入るといいよ」


 フレデリックは建物に入るように促した。

 せめてもう少し、情報を引き出したいところだ。ここは少し落ち着こう。


「その前に小腹が空いたわ。喉も乾いたし」


 冷静を装い、顎をクイッと上げる。


「ここに来るまでに見つけた、表通りにあるお店に入りたいわ」


 オープニングテラスのあるカフェを見つけた。そこならば人目もあるし、フレデリックは変な行動を取らないはずだ。そこでセリーヌについての情報を引き出せるだけ、引き出してやる。


 話しているとどこかでボロが出るだろう。


「いいね、行こうか。デートみたいだし」


 のんきに笑うフレデリック。

 バカめ。誰が好き好んであんたとなんて行動するか。すべてセリーヌのため。


 喉まで出かかった言葉をグッとこらえ、フレデリックと一緒にカフェを目指した。


「天気もいいし、外にしましょう」


 わざわざオープンテラスを選び、席に座る。しばらくすると注文した紅茶が運ばれてきた。


 温かい紅茶を飲むと、少しだけ心が落ち着いた。


 そう、私はこれから駆け引きが始まる、目の前のこの男と――


 フレデリックはニコニコと微笑みを絶やさず、手を組んで私を見つめている。その笑顔が気持ち悪いと感じてしまう。


 オープンテラスなので、行き交う通行人がチラチラと視線を投げている。特に若い女性が。その視線の先にいるのはフレデリックだ。


 そう、フレデリックは優しげな雰囲気を持ち、ゼロニスとは系統が違うが、彼もまた人目を惹く容姿だった。なのになぜ、私に執着するのだろう。


「ロンバルディ家の婚約者選びに参加していたんだって?」


 フレデリックがわずかに目を細めた。

 私は冷静さを失わないよう必死に保ちながら、紅茶のカップをテーブルに置く。


「ええ。お父さまとお義母さまに、メイデス家の娘としての任務だと言われましたの。お義兄さまの方こそ、留学はどうでしたの? 今は休暇中ですの?」


 話をそれとなく別な方に向ける。

 フレデリックの留学期間、まだ先は長かったはずだ。なぜ帰国したのだろう。


「まず、その呼び名を止めてくれないか?」


 フレデリックは笑みを浮かべているが、目は笑っていない。


「あら、おかしなことを言いますのね。お義兄さまはお義兄さまでしょう?」


 おどけた口調でふふふと笑う。

 フレデリックは深くため息をつくと、足を組んだ。


「まず、留学中に噂を耳にしたんだ。ロンバルディ家の婚約者選びにメイデス家の長女も参加していると」

「そうでしたのね」


 両親は黙っていたはずだ。特に義母は私がフレデリックと接触するのをすごく嫌っていたから。


「なぜ、そんなものに参加した。僕の気持ちを知りながら」


 フレデリックはギリリと唇を噛んだ。


「両親のいいつけですわ」


 フレデリックの目を真っすぐに見つめる。探るような眼差しを向けられるが、静かに受け止める。


「……まあ、そんなことだろうと思った。あの両親からの圧なら逆らえなかったことだろう」


 フレデリックは首を大きく横に振った。


 まあ、ラリエットも候補者選びにノリノリで参加したんだけどね、あなたと離れたくて‼  


 そう思ったが、口には出さずに心の中で留めておいた。

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