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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第五章 戻ってきたロンバルディ家

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 椅子に座り、封筒をジッと見つめる。


 フレデリックは私に固執しているが、もう関わりを持ちたくない。ロンバルディの屋敷で家族との関りを絶って過ごしていた日々に慣れてしまい、今さら接点を持つなんて考えられない。


 だが、セリーヌがさらわれた、もしくは意図せず連れ去られていたのなら、私は彼女を助けたい。


 例え、フレデリックが相手でもひるまずに立ち向かうわ。

 そう、セリーヌの無事を確認しに行こう。もしフレデリックの言っていることが本当だったのなら、私の問題に彼女を巻き込んでしまったことになる。


 やはり、セリーヌのことは見て見ぬふりはできない。


 心に決めたのなら、迷いはなかった。

 

 クローゼットを開け、劇場で働いていた時に購入した簡素なワンピースに着替える。こちらの方が動きやすいから、いざという時のためだ。


 準備を整え、部屋を見渡す。


 私は絶対またここへ帰ってくる、セリーヌを連れて。意気込みと共に固く誓った。


 ゼロニスの顔が脳裏に浮かぶ。

 なにかあれば自分を頼れと言っていたゼロニス。だけど、あなたは今日に限って領地に視察に行っているだなんて、なんてタイミングが悪いの。


 こんな時こそ、側にいて欲しいのに。


 そう思えた自分が意外で笑みがこぼれた。


 まさか私がそんな風に思う日が来るなんて。心境の変化にびっくりだ。


 ゼロニスを待たずにトバルの街へ行ったなんて知られたら、怒られると容易に想像がつく。


 だけど、帰ってくるまで待っていられない。セリーヌが心配でたまらないからだ。もしかしたら、今頃泣いているかもしれなし、助けを待っているかもしれないじゃない。


 それにフレデリックの手紙には他言するな、と書いてあった。たんに脅し文句ならいいが、本気だったらどうなるの?

 考えていると背筋がゾクッとした。


「大丈夫、大丈夫よ」


 自分自身に声を出して言い聞かせ、息を大きく吸い込んだ。


 鍵のかかったドレッサーの引き出しを開けると、宝石箱が姿を現した。その中から一番大きくて綺麗に輝く宝石のついた指輪を取り出した。


 これはゼロニスからもらった指輪。高価なものだから大事にしまっていた。

 私はネックレスのチェーンを指輪に通し首にかけると、服の下にしまう。


 お願い、ゼロニスの代わりに私を守ってちょうだい。


 目を閉じて指輪に祈りを込めたあと、準備を終え庭園の裏門を目指した。


 裏門を前にしてゴクリと息をのむ。


 この裏門から出るのは二回目。一回目はもう戻らぬ覚悟でここから出た。だけど、二回目は必ずここに戻ってくる覚悟で出るのだ。真逆の決意を自分でも不思議に思いながら、裏門から外に通じる扉に手をかけた。


 扉を出ると門番が二人、脇に立っていた。前回と同じ、彼らは無表情だ。


 だが一回目の時、ここから出て乗合馬車で街に行った私を不審に思い、ゼロニスに報告がいったのだった。

 だから、今回も彼らから報告が行くと思いたい。私はこれから乗合馬車で街へ向かうのだから。


 もし、ゼロニスが帰ってきた時、私の姿が見えなかったら、彼らの報告でピンとくるだろう。

 きっと私のことを探すはずだ。


 念のため、自室にはフレデリックの手紙をテーブルの見やすい位置に置いてきた。

 これも、私がすぐにロンバルディの屋敷に帰れなかった時の保険だった。


 でも、大丈夫。私は今から街へ行き、無事にセリーヌを連れて帰ってくるのだから。


 帰宅したゼロニスに無茶をしたと怒られるだろうが、そこは覚悟している。こんな時に視察だなんてタイミングが悪ったのだから、仕方がない。今回ばかりはゼロニスの帰宅を待っていられない。

 

 乗合馬車で街に向かう。今回も私の他に乗る人はいなかった。


 トバルの街並みが見えてくると、緊張してきた。


 フレデリックは私を前にしてどう出るか。それよりもセリーヌは無事なのだろうか。


 同封されていた地図の場所は頭に叩きいれ、自室に置いてきた。万が一の場合、私の居場所がわかるためだ。


 慎重に歩いて地図が示していた場所を目指す。


 トバルの街の北通り、三本目の細い道を曲がり――


 この街に二週間ほど住み、時間がある時はフラフラと散策していたおかげで、なんとなく地図の場所は検討がついた。


 ここね――


 指示された場所は宿屋だった。ちょっと値段が張りそうな、高級な建物。私が以前泊まった黒猫亭とは雰囲気が全然違う。


 扉に手をかけようと躊躇していると、背後から肩をつかまれた。


 喉の奥からヒッと声が出そうになったところで、耳元で声が聞こえた。


「ラリエット」


 この声は――


 すごく久しぶりに聞くが、間違いない。


 聞くたびに嫌悪感を増す声を、私が聞き間違えるはずがない。


 ゴクリと喉を鳴らして顔を向けると、義兄のフレデリックが不敵に微笑んでいた。

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