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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第五章 戻ってきたロンバルディ家

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 恐怖を感じ手にしていた手紙を、思わず強い力でテーブルに叩きつけた。


 嘘よ、そんなはずがないわ。

 ここにまで来れるはずがないもの!


 それは義兄フレデリックの字に似ていた。

 テーブルに叩きつけられた封筒をジッと見つめる。


 嫌な予感がする……。

 仮にこれがフレデリックからの手紙だとしたら――


 まさか、この部屋に入りこんだの⁉


 その可能性が脳裏に浮かんだ瞬間、バッと背後を振り返る。キョロキョロと部屋の中を見渡し、誰もいないことに安堵して、小さく息を吐き出した。


 完全にラリエットのトラウマとなっている人物、義兄フレデリック。

 初めて会った時から、どことなく苦手だった。そしてすぐにその勘は当たっていたと実感したわ。


 ある時、私のクッションがなくなった。最初は特に気にも留めなかった。すぐさま新しいクッションが準備されたから。でもフレデリックからこっそり耳元で『ラリエットのクッションを使っているんだ』と言われた時、最初は意味がわからなかった。


『ラリエットの匂いがするから。添い寝しているみたいで心地良いんだ』


 満面の笑みを浮かべながら続けられた言葉に、心底ゾッとした。


 それから―― 


 両親が領地の視察で留守にした時など、彼は特に大胆な行動に出るようになった。

 私が湯を浴びていると、フレデリックは堂々と浴室の扉を開けたり、酷い時には寝室に入りこもうとした。


 私は恐怖と戦い、いつも気を張っていた。

 それこそ、両親が留守の時は湯を浴びない、寝室はいつもと違う部屋を使うなど、対策をとっていた。


 今思えば、あのねちっこい視線によく耐えていたものだ。


 義母はいつも私の態度が悪いせいだとなじった。だが、義母も危機感を抱いていたのだろう。もっとも義母の不安は、かわいい息子が義娘に誘惑されてしまう、といった見当違いな方向だったが。自分の大事な息子が加害者側だとは、考えもしない人種だった。


 だから義母が説得し、フレデリックが留学に行くと決まった時は、天国かと思ったぐらいだった。


 私はこの隙に絶対、メイデス家から逃げ出して見せる、そのためにはゼロニスの婚約者に選ばれると意気込んでいた。


 だがその結果、本来なら早々に本編から退場したラリエット。

 ラリエットの背景を知ってしまった今は、同情した。

 それもあり今回、私が記憶を思い出したのも意味があるように思えた。


 もうラリエットをバットエンドにはしないわ、絶対に。

 深呼吸をし、封筒に手を伸ばす。


 まず内容を確かめなければ。


 父が倒れたからメイデス家に帰ってこいとか、情に訴える作戦か。それとも気持ちの悪い恋文か。

 どちらにせよ、気は進まない。

 だが、恐る恐る封筒を開ける。

 そこには予想もしなかったことが書かれていたので、目を見張る。


『セリーヌ・バーデンと無事に会いたければ、地図の場所へ一人でおいで。他言した時は、賢い君ならわかっているよね』


 セリーヌですって……⁉


 脅しともとれる一文。


 この字はフレデリックで間違いない……。


 私は手紙をテーブルの上に放り投げ、セリーヌの部屋を目指す。


 まさか、嘘よね? 


 ダイニングに姿を見せなかったけれど、ちゃんと部屋にいるわよね、お願い……‼

 祈る気持ちでノックをするが、返事はない。待ちきれず、ドアノブに手をかけた。


「セリーヌいるの!?」


 部屋の中はガランとして、彼女の姿はなかった。


「いたら返事をして」


 部屋の中心まで足を進め、声を張り上げるも返答がない。人の気配がないので、やはりいないのか。


 もしかして――


 私はセリーヌの部屋から出ると、急いでダイニングへと足を向けた。


 ひょっとしてセリーヌは遅い朝食を取っているんじゃないかしら?


 ダイニングは人がまばらに残ってはいたが、セリーヌの姿は見えなかった。

 落胆し、その足で庭園へ向かう。私たちが二人でよく歩く道順を一通り歩くが、セリーヌの姿はない。もう一度、セリーヌの部屋へ行ってみるが、戻ってはいなかった。


 もしかして私の部屋を訪ねているとか? 行き違いになっただけだったりして?


 淡い期待を持ちつつ、自室に戻る。


 やっぱり、セリーヌの姿が見えず、私は落胆する。

 テーブルの上に無造作に置かれた手紙。再度手を伸ばし、もう一度読んだ。


 セリーヌはもしかしてフレデリックと共にいるのだろうか? でもどうして?

 考えても答えが出ない。


 このロンバルディの屋敷に忍び込み、セリーヌを誘拐したとも考えにくい。


 一番可能性があると考えているのは、フレデリックが嘘をついて私をおびき寄せようとしている、ということ。

 

 だからセリーヌの姿を確認できたら、それだけでも安心できたのに……。

 

 深く考え込み、痛いぐらいに唇をギュッと噛みしめた。

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