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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第五章 戻ってきたロンバルディ家

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 「……ちょっ、ダメです」


 ギリギリのところで我に返り、ゼロニスの唇を両手で押えた。ゼロニスは目を細め、私をジロリとにらむ。


 油断も隙もあったもんじゃないわ。こんな庭園でなんて誰が見ているか、わからないじゃない。

 キョロキョロと周囲を見回すとゼロニスは私の手をつかむ。


「お前は雰囲気を読め」

「むしろそっちが慎みを持ってくださいよ」


 ゼロニスに負けずと意見する。


「この……」


 チッと小さく舌打ちするゼロニスはお行儀が悪い。


「どうせお前は婚約者に決定なのだから、いいだろう」

「なんですか、それ。減るもんじゃない、みたいな」

「実際、減らないだろうが」


 ああいえば、こういう……


 呆れている私に、ゼロニスはビシッと指を突き付けた。


「いつかお前に俺のことを愛していると言わせてみせるからな、覚悟しておけ」


 ゼロニスはヌッと手を伸ばすと私の唇をギュッとつかんだ。

 まったく、どこからくるのか、その自信は。


「あと、婚約者なのだから、特別にゼロニスと呼ばせてやる。敬称はいらない。つけたら死刑だ」

「ひっ」


 物騒な発言に喉の奥から変な声が出た。


「あなたが言うと本気に聞こえます! 本当に地面に首が転がりそうな発言やめてください‼」

「お前のその発言も、なにげに不敬だからな」


 だがゼロニスは言葉とは裏腹に口調は楽しそうだ。


「お前だけだ、俺にそんな発言をするのは」


 ゼロニスはククッと笑うと手を伸ばし、私の背中に手を回す。そのままギュッと抱きしめてくる。厚い胸板、そしてシトラスの香りにドキッとする。


「俺は優しいと思うのだがな。お前の意志を尊重して待っているのだから」


 本当に優しい男は自分で優しいなんて言わないはずよ。


 ムウッと唇を尖らせた。

 だが、彼の香りに包まれているこの状況は心臓がドキドキする。


「早く覚悟を決めてしまえ、どうせ逃げられないのだから」


 言い方は乱暴だが、声は優しい。ギュッと抱きしめられ、彼の胸に顔をくっつけているとドクドクと音が聞こえてきた。心地良いリズムは私を安心させる。 


 この温もりが心地良くて、そっと瞼を閉じる。いつの間にか、私も胸が同じように高鳴っている。これはゼロニスの音なのか、私から聞こえるのか、どちらなのだろう。


 静かに瞼を開けると視界に入ってきた光景に息をのんだ。


「わっ……‼」


 驚きのあまり勢いよく、ゼロニスを突き飛ばした。


「も、申し訳ありません……‼ 声をかけるのをためらってしまい……」


 真っ赤な顔で謝罪するフォルクは身を縮こまらせていた。


「いっ、いいのよ。気にしないで‼」


 いつからいたんだ、フォルク。そしているなら早く声をかけてくれ。


「お二人の幸せな世界を邪魔してしまい、今すぐここから消え去りたいぐらいです」


 うわぁぁぁぁ、それ以上は口にしないでくれ。気まずいから。


「どうぞ、私のことは空気と思い、続けてください」

 

 フォルクはどうぞと言わんばかりに手を差し出すが、そんなわけにいくか!


 わぁわぁと慌ただしくしていると、ゼロニスが声を出す。


「空気を読め、フォルク」


 圧が強めの声を出し、フォルクをジロリとにらむゼロニスは、私の肩を抱いた。


「申し訳ありません。明日の視察の件で、事前に言うべきことを忘れないうちにと思いまして……」


 かわいそうなフォルクは一度背筋を正すと、再度謝罪の言葉を投げた。


 明日、ゼロニスはいないのだろうか。


 ふとフォルクの言葉が気になり、顔を向ける。ゼロニスは視線に気づくと小さくうなずいた。


「ああ、明日は視察に出かけ、一泊して帰ってくる」


 そっか、明日ゼロニスはいないのか。なんだか毎日顔を合わせていたから、妙な気分になる。


「さみしいか?」


 顔をズイッとのぞき込まれ、言葉に詰まる。


「だ、大丈夫です」


 見透かされたようで頬が赤くなる。変な気分だ。顔を逸らし、髪を耳にかけた。ゼロニスはフッと微笑むと、私の顎に手を添え、顔を向かせる。


「な、なんでしょう」


 端整な顔に浮かべる笑みは破壊力抜群だ。


「つれない台詞だな。俺はたった一日でも、さびしく思うのに」


 ……本当なのだろうか。こんなにかっこいい彼が私のことを好きだって。セリーヌの間違いじゃなくて?


 胸がドキドキしながらも視線を逸らせない。ゼロニスは口元に笑みを浮かべ、優しく何度も私の唇を指でなぞる。


「視察先はシルクが特産だから、みやげを待っているがいい」


 私を気遣う言葉に胸がドキドキしっぱなしだ。指でなぞられ続ける唇。やがて端整な顔が近づいてきたが、カッと目を見開く。


「ちょっ……‼」


 フォルクが見ているっているの!! また同じことを繰り返すつもり?


 ゼロニスの唇を両手で押えた。


「気にするな。あいつは庭の銅像だと思えばいい」

「無理です‼」

 

 自分の大事な腹心を銅像扱いするなと言いたい。


 しばし無言で見つめ合うが、やがてゼロニスは渋々といった様子で背筋を伸ばす。


 肝心のフォルクはこちらに背を向け、視界に入らないように彼なりの気遣いを見せていた。

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