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 フォルクとセリーヌの姿が見えなくなるほど離れると、ゼロニスはパッと手を離した。振り返り、私と視線を合わせた。


「メイデス家に帰りたくない、以前お前はそう言ったな」


 いきなりどうしたのだろう。私は首を縦にふる。


「家族と折り合いが悪いと、なぜ言わなかった」


 ゼロニスの表情が不機嫌にゆがめられた。セリーヌとの会話が聞こえていたのだろう。


「……お聞かせしても不快になるだけだと思ったので」


 メイデス家に帰りたくないとは言ったが、詳しい事情を話していなかった。特にゼロニスに聞かれもしなかったから黙っていた。

 ゼロニスは唇をギュッと引き締めた。


「なにか事情があるのだろうが、俺はお前から言ってくるのを待っていた」


 私もセリーヌに対して思っていた。いつか彼女の口から聞くまで待とうと。セリーヌから話してくれた時は嬉しかったし、力になってやりたいとも思った。なにもできずとも、せめて話を聞こうとした。


 まさかゼロニスも同じ気持ちだったのだろうか。


「だが、なぜあのバーゲン家の娘には話すんだ。俺を差し置いて」


 すねたような口調に戸惑ってしまい、視線をさまよわせた。


「俺は――」


 突如、ゼロニスが腰に腕を回し、私を引き寄せた。私の肩に顎を乗せる。


「お前が望むなら、なんでもやってやる」


 突然の告白にドキドキしていると、腰に回された腕にギュッと力が入る。


「メイデス家の人間と接触したくないのなら、離してやってもいい」


 静かに語りかけるように口にするゼロニスの表情は見えない。

 ゼロニスが言うのなら、本当に可能だと思える。なぜなら、彼にはそれだけの社会的地位と力があるのだから。

 すべて私を気遣っての彼の発言だろう。


 私のことを想ってくれる人がいると、さっきも実感したばかり。セリーヌに、ゼロニス。その事実を知り胸がいっぱいになった。


 家族から受け取れなかった愛情を感じている。

 なおも肩口でゼロニスの声が聞こえる。


「メイデス家の人間を闇に葬ってもいい」


 おいおいおいおい、いきなり物騒な発言はよしてくれ。


 感動していたところなのに、ヒュッと喉の奥から変な声が出そうになる。

 そうだ、すっかり忘れていたが、暴君と名高いゼロニスだったじゃないか。


「そ、そこまでは大丈夫ですから!!」


 無理やりゼロニスの肩をつかむと、顔をのぞきこんだ。

 物騒なのは止めて、私はただ距離を取れたらそれでいいから。

 私の必死な形相を見たゼロニスは目を瞬かせたのち、笑った。


「わかった、お前がそう言うのなら、止めておこう。――今は」


 ん? なにか最後に物騒なキーワードが聞こえた気がするが、気のせいよね、きっと。


「だが、なにかあったら俺に言うことだけは約束するんだ」

「は、はい」


 両肩をガシッと掴まれ、真剣な表情を向けられる。

 ゼロニスはスッと右手の小指を差し出した。

 その行動を不思議に思い首を傾げる。


「ほら、こんな時は約束するのだろう」


 差し出された指とゼロニスの顔を交互に見て、噴き出してしまう。

 ゼロニスってば、前回のこと覚えていたんだ。なんだ、結構かわいいところもあるんじゃないか。


「痛っ!!」


 笑っていると指で額を弾かれた。


「早く出せ、バカ者」


 なにもぶつことないじゃない。額を抑えながら恨みがましい視線を向けると、頬が少し赤いことに気づく。


 あれ、ゼロニスってば照れている……?


「ほら」


 急かされたので指を出すと、ゼロニスはそっと絡めるとギュッと力を入れた。


「よし、これで約束。破ったら剣、一万本で突き刺す」


 怖い、それはもう死刑宣告ではないか。表情が強張った私を見て、ゼロニスはフッと笑う。


「約束を破らなければいい話だろう」


 そうだろうけどさ、物騒じゃない、例えが。

 口を尖らせた時、頬にそっと手が添えられた。


 えっ……


 顔を上げると視界に飛び込んできたのはゼロニスの端整な顔だち。


 吐息が感じられるほど近づいたと思ったら、唇に柔らかな感触を受けた。それは一瞬の出来事だったが、思考を停止させるには十分だった。


 ゼロニスは悪びれもなく、フッと微笑む。


 今、口づけをされた!?


「なっ、なっ……」


 彼の笑顔を見てようやく理解してくると、顔が真っ赤になった。動揺して言葉にならない私を見て、ゼロニスはいたずらが成功した子供のように頬を緩めた。


 頬に手を添えたまま、心臓がバクバクいって収まりそうもない。


「そんなにかわいい顔をするからだ」


 ゼロニスはあっけらかんとして、悪びれる様子はない。


「だ、誰かに見られたらどうするんですか!?」

「別にいいだろう。婚約するのだし」


 まだ決まったわけじゃないでしょ。


「それともなにか、婚約をしたくない理由でもあるのか」


 スッと目を細めるゼロニスは一瞬に不機嫌を漂わせ、圧がすごい。


「まさか街に行った時に、男でも――」

「そんなわけありますか!」


 仕事を見つけるのでいっぱいいっぱいだったわ。そんな時間も心の余裕もないわ。


「だろうな。見張りから男と接近したという報告は受けていないからな」


 ゼロニスはフッと微笑むがその発言により、すべて合点がいく。私はロンバルディの屋敷から出たところから監視されていたということだろうか。

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