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うつむいて考えたあと、顔を上げてセリーヌを見つめた。
「私、トバルの街にいたでしょう?」
「はい」
「実は、私も実家のメイデス家に帰りたくなかったからなの」
セリーヌが話してくれたのだから、私も内情を打ち明けるのがフェアに思えた。
「ゼロニス様に出て行けと言われて、それは誤解だったのだけど、その時に街にいったのは、メイデス家に戻りたくなかったから。自分の居場所を探しに行ったの」
「そうだったのですね。大胆な行動の裏にはちゃんとした理由があったのですね」
真剣な顔で聞いてくれるセリーヌに、もっと話したくなったので続けた。
「私の両親は野心家でロンバルディ家と縁を繋げようと、必死だったわ。それこそ、メイドを私の監視役として側においてた。それはこのロンバルディ家に来ても、変わりはなかったわ」
でも、その監視役のマーゴットは私が記憶を取り戻してすぐに屋敷から追い出したけど。我ながらよくやったわ。あの時頑張ったからこそ道が開けて今がある。
「もっと悪いことに義兄が私に執着しているの。今は留学しているけど、いつ戻ってくるかわからない。そんな生活は地獄よ。そこから抜け出すために、私はあがくつもりよ」
「ラリエット様……」
セリーヌは眉根を下げ、唇をギュッと噛みしめ、私の手を取った。
「お辛かったでしょう」
その手の温もりを心地良く感じながら静かに微笑む。
「ええ、セリーヌあなたもね」
お互いに健闘を褒めたたえた。
私たちはそれぞれの場所で戦っていた。同志を見つけた気分になる。話を聞いてくれるだけで、すごく心が楽になる。
「ラリエット様、一つ聞いてもよろしいですか?
「どうぞ」
「そんなお辛い時、どうやってやり過ごしてしました?」
実際、ここが小説の中だと気づいたのは、ロンバルディ家に来てからだ。
だが記憶を呼び起こすと――
家族から受けたストレスを使用人たちにぶつけて、八つ当たりしていたっけ。あとは食器や花瓶を投げつけて割ったりしていた。
でも、そんなことしてもどうにもならない。環境を変えなければストレスは減らない。
もっとも、そう気づけたのはロンベルディの屋敷に来てからだけど。
「私は、未来はこうなる、絶対にメイデス家には戻らないって自分に誓いを立てて過ごしていたわ」
そのために必死に賃金を貯めていたのだもの。
「セリーヌは? なにか目標とすることとかある?」
「私は……」
少し言葉が詰まったセリーヌだが、顔を上げた。
「結婚したいとは思いません。ですが毎月誰の目を気にすることなく、劇場で鑑賞できるようになれば嬉しいですわ」
小説の中の描写でもセリーヌは芝居が好きだった。ゼロニスがセリーヌのために劇場を買ったぐらい。今回もゼロニスは劇場をお買い上げしたけれど、ええ。それはなぜか私のためだったけど。
「だってお芝居って素敵じゃないですか。自分だけど自分じゃない誰かになれるなんて」
セリーヌは瞳をキラキラと輝かせて話す。この子は本当にお芝居が好きなのだな。
そう感じてクスリと笑った。
「そんなにお芝居が好きなら、演じる側になってみれば?」
「えっ?」
セリーヌは目をパチパチと瞬かせた。
「そうすれば劇場にずっといられるわよ」
彼女ほど人目を惹く可愛らしさなら、看板女優になるのも夢じゃない。
私は通りすがりの役だったけど!!
セリーヌと見つめ合い、微笑んだ。
「なにをそんなに笑っている」
「ぎゃっ!!」
突如、背後から私とセリーヌの間にヌッと顔を出した人物がいる。
ゼロニスだ。驚いて飛び上がりそうになったわ。急に出現するな。目を丸くしている私の顔を見て、ゼロニスはクッと笑う。
「なんだ、その声は。色気がない」
だがゼロニスは愉快そうに笑う、声まで出して。
人のことを驚かしておいて、色気がどうとか言うな。
「お散歩ですか?」
ゼロニスが庭園を歩いているとは珍しい。背後に控えていたフォルクがスッと腰を折る。
「ラリエット様に用事があって部屋まで呼びに行きましたが、お留守でした。セリーヌ様も不在でしたので、きっと、ここかと思いまして」
ばれてる、ばれてる、私の行動。てかフォルク、怖すぎるだろ。
「話はすんだのか?」
ゼロニスが私の腕をガッとつかみ、顎でしゃくった。いや、今、セリーヌと楽しく会話している途中――
「はい、終わりました」
セリーヌが私の代わりに返事をする。
「なら、ついてこい」
ゼロニスは腕に力を入れたので、私は立ち上がった。
「ちょ、ちょっと待ってください」
後ろも見ずにズンズンと進んでいくゼロニス。転びそうになりながら後をついていくが、振り返るとセリーヌは笑っていた。




