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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第五章 戻ってきたロンバルディ家

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 私がトバルの街から戻ってきて、一週間が過ぎた。

 メイドのラリーという存在は姿を消し、ラリエット・メイデスとしてゼロニスの側にいる。


「お待たせしました」

「ああ」


 だがラリーの時と同じ、私はゼロニスに紅茶を淹れる係になっている。

 ゼロニスの部屋を訪ねると紅茶道具の一式そろったカートが準備されている。


 私は紅茶の葉をどれにしようか気分で決め、慣れた手つきで紅茶を淹れる。

 ゼロニスは私にも紅茶を飲むように言ったので、自分の分も淹れる。ソファに座るように視線でうながされたので、じゃあ遠慮なく。

 ゼロニスには紅茶を飲むと、ふと思い出したように顔を上げた。


「ああ、そうだ。買ったぞ」

「なにがですか?」


 主語がない、主語が。首を傾げる私に、ゼロニスはこともなげに告げた。


「あの劇場だ」

「えっ!?」


 目を最大限に見開き、体が前のめりになる。驚きすぎて言葉も出ないとは、このことだ。


「な、なぜですか?」


 いったい、いくらした。いや、そもそも買う必要ある? いろいろな疑問が浮かぶ。


「働きたいと思うぐらい、あの劇場が気に入ったのだろう」


 ゼロニスはこともなげに告げる。


 ち、違うわ~~!! 雇ってくれるところがあそこしかなかったのよ!!


「好きに使うといい」


 使えるわけないでしょ!! 恐ろしいことを、さらりと口にするな。


「あの舞台に立ってもいいぞ。今度はスポットライトを浴びる役柄でな」


 ゼロニスは私の通りすがりの役をあてこすっているのか、クッと笑う。


 だが実際、通りすがりの役でもとても楽しかった。ただ座っているだけでお芝居を楽しめるし、観客のワクワクした顔を見れたし。なによりも賃金がもらえた。しかも住み込みでだなんて破格の処遇だった。


「なんなら、主役をやってみるか?」


 ゼロニスがサラッと言ったので、紅茶を噴き出しそうになる。


「相手役を俺がやってやろう。観客の前で口づけをするがな」

「む、無理です!!」


 即答するとゼロニスは声を出して笑う。


 この人、本当に私のことをからかうのが好きみたい。それに、最初に出会った頃よりも表情が豊かになったし、私の前でよく笑う。


 ゼロニスは私の隣にくると、そっと手を伸ばし、髪に触れる。 

 優しい顔つきで私に触れてくるので、私は反応に困ってしまう。


 今、私がゼロニスの婚約者第一候補と噂が流れているとセリーヌから聞いた。それと共に、他の候補者たちは帰宅し始めたとも。


 セリーヌは最後まで残ると言っていた。あの様子では、あまり実家に帰りたくないみたいだ。私と同じね。いつかセリーヌと、この件で話すことはできるのかしら。


 だけど、本来ならセリーヌはゼロニスと幸せになり、実家に戻るなんて描写はなかった。セリーヌの実家のことなど、小説では書かれていなかったもの。


 ゼロニスと結ばれたら、実家に帰ることなんてなかったのよね。

 私が彼女の居場所を奪ってしまったのだろうか。


「おい」


 考え込んでいると急に声をかけられ、顔を上げた。


「なに深刻な顔をしているんだ」


 ゼロニスは指で私の眉間をぐりぐりと押す。


「ちょっと痛いです!!」


 私は非難の声を出すとゼロニスはそれすらも愉快そうだ。


「お前だけだぞ。俺の前で自然体でいるのは」


 えっ、自然体?

 これでもかなり気を遣っているのですけど。本音で接していたら不敬罪で首が転がる、床に。


「ほら、そうやってすぐ顔に出るじゃないか」


 ゼロニスに言われ、ハッとする。そうだ、私はすぐに顔に出るのが短所だ。


「き、気を付けます」

「俺の前では皆が自分を偽るからな。その点、お前は正直者だな」


 ゼロニスに褒められた……?

 ちょっと嬉しくなり、口の端が少し上がってしまう。


「まあ、バカ正直といった方が正しいか」


 ゼロニスはクククッと笑う。

 そうくると思ったわ。私はスンと目を細めた。


「俺の前で、あまり感情を出す奴がいない。なにを考えているのか、わからない奴が多い中、単純だ」


 単純で悪いか。

 だがゼロニスはフッと微笑む。


「だからこそ、面白い。目が離せない」


 真っすぐに顔を見つめられ、心臓がドキッとした。ゼロニスは手にしていたひと房を優しくなでた。


「お前が側にいると居心地が良いと思ってしまう」


 ゼロニスはそっと手を伸ばすと、私の頬に触れる。


 えっ、これは……。

 徐々に近づいてくるゼロニスの端整な顔だち。吐息が感じられるほどの距離になった時、扉が叩かれた。


 ノック音が聞こえると私はすぐさま身を離した。ゼロニスは大きく舌打ちをした。


 ゼロニスはなにをしようとしたの? あのままだったら、口づけされていたかもしれない。 

 頬が高揚し、恥ずかしくてゼロニスに顔を見れない。


 扉向こうの相手はゼロニスが返事をすると扉を開いた。


「申し訳ありません。ゼロニス様、今よろしいでしょうか?」


 顔を出したのはフォルクだった。

 焦っている彼を見て、急用なのだと察した。ゼロニスもスッと立ち上がり、フォルクに近づいた。

 私がここにいては、会話の邪魔になるだろう。


「私は先に戻りますね」


 ソファから立ち上がり、退室しようとゼロニスの脇を通る。

 通り過ぎた瞬間、グッと肩をつかまれた。


 何事かと思ったら、無理やりゼロニスの方を向かされる。

 驚いている私の額に、柔らかな感触があった。


 口づけをされたのだ、ゼロニスに。


 気づくと真っ赤になり、両手で額を隠した。

 なにも言えず、唇をパクパクと動かす私にゼロニスは不敵に微笑む。


「油断しているからだ。バカめ」


 してやったりといったドヤ顔を向けるゼロニスを真っ赤になってにらんだ。


 もう、人前でなにやっているのよ!!


 早足で部屋から出ようとすると、扉脇にいたフォルクとばっちり目が合った。


「み、見てません!! お二人が仲良しで、ラリエット様がゼロニス様の口づけを受け止めたところなど!!」


 しっかり見てるんじゃないか。必死になって弁解しても遅いわ。 


 フォルクも真っ赤になっているものだから、つられてますます顔が火照る。首まで真っ赤になったわ。

 腕を組み、笑っているゼロニスだけが余裕そうな態度なのが、また憎たらしい。


「失礼しました!!」


 大声で挨拶をし、逃げるように退室した。

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