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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第四章 自立を目指して

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 真剣な眼差しを向けられても理解できずに、ゼロニスの顔を凝視した。


 突如、額に痛みが走り、のけぞった。指ではねられたのだ。


「三度目も言わせるつもりか。バカめ」


 しかしその痛みにより、我に返った。

 嘘でしょう、あなた、セリーヌはどうするの?

 額を抑えながら、口を開く。


「なぜですか? セリーヌはどうするのですか」

「セリーヌ?」


 ゼロニスの眉間に皺が寄る。


「一緒に劇場に来ていたじゃないですか」

「ああ、あのバーデン家の娘か」


 名前も覚えていないの? あなたの初恋の相手のはずですけど。


「バーデン家の娘とは親しくしていただろう? 違うか」

「そりゃ、他の候補者たちと比べれば、一番親しくしていましたけど……」

「あの場でお前の姿を見つけるだろうと思って連れて行った。結局、自力で見つけたから、連れて行ったのは無駄になったがな」


 そんな自分勝手な理由でセリーヌを連れまわしたのね。挙句、私を見つけてセリーヌはどうやって帰ってきたのだろう。

 まさか置き去り? それはないと思いたいが確認するのが怖い。


「そもそもなぜ、私があそこで働いているとわかったのです? それに出て行けと仰ったじゃないですか」


 そうよ、完全に見切られたと思っていたわ。


「俺は部屋から出て行け、と言った。屋敷から出て行く奴があるか。愚か者め。早合点しすぎだと言われないか?」


 くっ、この……。


 今までのあなたの出て行けは、屋敷からだったでしょ。側で見ていた私が、そう受け取るのも無理はないでしょうに。


「……お前が姿を消したと知った時の俺の気持ちがわかるか?」


 ゼロニスの台詞に不覚にも胸がドクンと音を出した。

 彼はどう思ったのだろう。少しは後悔してくれたのかな。もしくはさみしく思ってくれたとか!


「ものすごく腹立たしい気持ちになった」


 え……?


 予想の斜め上をいく返答にうなりそうになった。


「なぜ、いきなりいなくなったのだろう。挨拶もせずに不義理だと、最初は頭にきていた。だが徐々に、今頃なにをしているのだろうかと心配に変わった」


 ゼロニスが心情の変化を口にする。


「そうこうしているうちに、お前のことばかり考えている自分に気づいた」


 ゼロニスは自分の手をジッと見つめた。


「それは俺にとって新たな発見だった。今まではたかがメイドが辞めたぐらいで、考えることも思い出すこともなかった。こうまでもお前のことばかり脳裏に浮かぶのは、頭の中がどうにかしてしまったのかと思ったぐらいだ」


 ゼロニスは静かに吐き出したあと、視線を私に向ける。


「なあ、なぜだと思う? なぜ俺はお前のことばかり、考えていたんだ?」

「さぁ……どうしてでしょうね」


 それを私に聞くか? 返答に困るじゃないか。


「姿が見えないと落ち着かないし、不憫な生活をしていると想像すると心配にもなる。それならいっそ、側に置いておこうと思った。これが婚約しようと決めた理由だ」


 ゼロニスは胸を張り、堂々としている。自分の感情を隠すことなく伝えた。一方の私は突然のことに、心が追い付かない。


「で、お前の気持ちが固まるまで、ここに滞在していい」

「な、なぜ私なのですか……?」


 一番気になっていたことをたずねる。

 ゼロニスは首を傾げ、少し考える素振りを見せる。


「面白いからか……?」


 なぜ、言葉の最後が疑問形なんだ。

 それ、単なるヒマつぶし程度の興味じゃないかぁぁぁ。

 恋心とは無縁じゃない?


 つまり、ゼロニスはあまり人に興味がなかった。自分の感情を揺さぶる私を腹立たしいも思うと同時に、面白いから側に置いておきたくなった、というわけか。


 好きだとか愛しているとか、そっち系ではないわけね。

 まあ、私も期待していたわけではないけど、真正面から言われて少しドキッとしてしまったじゃないか。


 その時、腕をつかまれ、グッと引き寄せられた。驚いてよろめいたところを、額にチュッと口づけられた。


「えっ!?」


 バッと身を離し、額を手で抑える。

 ゼロニスは真っ赤になった私を見て、クッと笑う。


「な、なぜ?」

「なぜだろうな? お前を見ているとしたくなった」


 首を傾げながらシレッと口にするが、悪びれる様子もない。


「こ、こんなことは勝手にしてはダメです」


 両手で大きくバツを作り、訴える。


「なぜだ? 婚約者なのに?」


 ゼロニスはフッと微笑む。だが私はプルプルと震えながら叫んだ。


「ま、まだ決定じゃありませんから‼」

「しぶといな。まあ、落としてみせるがな」


 ゼロニスは不敵にニヤリと微笑む。

 えっ? えっ? 落とすってなにを? 私のことは人として興味があるだけでしょ?

 目をパチパチと瞬かせている私の顎に、ゼロニスはそっと手を添えた。


「好きだと言っているだろう。俺以上の男などいないぞ」


 顎をクイッと持ち上げると、ゼロニスは優美に微笑んだ。

 えっ…………?


「婚約者など、誰を選んでも同じだと思ってはいた。だが、お前も言っていただろう、愛があったほうがいいと」

「あ、ええ、まあ……」


 トバルの街に行った時、そんな会話をしたような気がする。


「だからお前を選んだ。それが答えだ」


 真っ赤になって思考停止している私を、ゼロニスは優しい眼差しで見つめていた。

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