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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第四章 自立を目指して

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 その後、ロンバルディの屋敷へ連行された。なぜか強制的に。

 お世話になった総支配人や劇場で働く人たちに一言の挨拶もせず、あの場を去った。


 今頃、劇場は大混乱に陥っているかもしれない。

 そう思うと、いたたまれない。

 ロンバルディの屋敷に到着すると近づいてきた執事頭に、ゼロニスは私を引き渡した。


「こちらへお越しください」


 案内された先は浴室だった。


 え、私、もしかして臭かった? 顔がボッと火照った。


「中にメイドが控えておりますので、まずはゆっくりおくつろぎください」


 執事頭はにっこり微笑むと、浴室に続く扉を開けた。


 執事頭の言う通り、メイドが二人控えていた。私は服を脱ぎ、浴槽につかる。

 久々に広い浴槽に浸かって手足を伸ばせて、感動した。涙が出そうなほど。

 ローズの香りがする香油をたらされているのだろう、その香りにも癒された。

 ゆっくりと温まったあとは、ガウンを羽織る。


「こちらへどうぞ」


 浴室から続く部屋に案内されたのは広い部屋だった。豪華な調度品に囲まれている。

 メイドがクローゼットからドレスを持ってきて、私が着るのを手伝った。

 肌触りが良く、生地は高級品だとわかる。

 私が持っていた派手派手しいデザインのドレスとは全然違う。

 流行に合ったデザインの美しいドレスだ。


 次に化粧も、私が施していた化粧とは全然違う。けばけばしく、塗ったくるメイクではなく、ナチュラルだけどそれでいて、美しく見える出来栄えだ。


 鏡に映るのはすっかり見た目が変わったラリエット・メイデス。

 ドレスと化粧による、今までの私の武装はすっかり取れた。

 そうして準備が整ったところで、扉がノックされた。


「失礼します。ゼロニス様がお呼びです」


 きた――!!


 いったい、なにを言われるのだろう。

 もしかして身分を偽ってラリーとしてこのお屋敷で働いていたことを咎められる?


 メイデス家に連絡をしていたら、どうしよう。それなら両親が迎えに来る前に、逃げなければ、絶対に。

 いろいろな考えが脳裏に浮かびながら、執事頭のあとをついていく。


「こちらになります」


 やがて、よく知ったゼロニスの執務室の前に到着する。

 よくここへは、カートを押して入室していたっけ。ラリーとして。


 だが今は初めてラリエット・メイデスとして彼を訪ねる。

 緊張からごくりと喉を鳴らし、ノックをする。やがて扉の奥からくぐもった声が聞こえたので、意を決して扉を開けた。


 ゼロニスは私の姿を見ると椅子からスッと立ち上がる。


「来たか」


 はい、来ました。

 私はこれから罰せられるのでしょうか。


 ビクビクしているとソファにかけるように勧められたので、従った。

 ゼロニスは私の真正面に腰を下ろした。


「聞きたいことが、山ほどある顔をしているな」


 ゼロニスはクッと笑う。その通り、もちろんだ。

 なによりも一番疑問に思うのが――


 私は膝の上でギュッと手を握り、意を決して口を開いた。


「どうして私が――」

「最初からわかっていた」


 え? すべてを言葉にする前にゼロニスは遮った。


「伯爵家の娘がメイドとして働くなど、前代未聞だからな」


 最初から気づいていたですってぇえぇぇ。私の苦労はなんだったんだ。

 だったら最初から、婚約者候補とかどうでもいいんで、働かせてくれません? と交渉していたら良かった。

 まあ、すべては結果論だけど。


「ロンバルディの屋敷で採用するメイドの素性を調べないとでも思ったか」


 ゼロニスは頬杖をつくと、クッと笑った。

 ちゃんとメイデス家の紹介、ということにしたのに‼ まあ、それも偽造だけど。

 だがゼロニスの言うことはもっともだ。素性のはっきりしない相手を側に置くはずがない。それでいて、私を採用したのはなぜだろう。


「最初はなにかをたくらんでいるのかと思った。別の目的でもあるのかと。例えば暗殺など――」


 ゼロニスの目が怪しく光る。背筋がゾゾッとした。


「ありえません、私がゼロニス様を暗殺など!!」 


 両手を振って誤解を解く。それだけはあり得ない、返り討ちにあうのがオチだわ。


「だからこそ、側において観察した方がいいと判断し、俺付きに任命した。その方が始末もしやすいしな」


 し、始末って……

 簡単に口にするゼロニスに肝が冷えた。

 少しでも怪しい行動を見せたら、命が危なかったということか。


 ゼロニスはスッと指さした。


「その指輪で確信した」

「あっ、これは……」


 母の形見の小さな宝石のついた指輪。片時も離さず身に着けていたから、ゼロニスは気づいたということか。恐るべし、洞察力。


「誰からもらった」


 ふと尋問されるような空気が流れ、喉の奥がヒッとなる。


「これは母の形見です」


 私が正直に答えると、ゼロニスの空気がやわらいだ。そもそも、そこは気にするところなの?


「ですが、なにもあんな劇の真っ最中に迎えにこなくても……」


 そうだ、劇が終わるまで待っていれば良かったじゃないか。

 するとゼロニスは意外だと言った様子で目を瞬かせた。


「お前が望んだのだろう」


 はて? 空耳かな。記憶になく、首を傾けた。


「大勢の前での告白が憧れると言っていたじゃないか」


 それはあくまでも劇の話であって、私のことじゃない!!

 ゼロニスは肩を揺らす。


「お前は俺付きになっても、特に怪しい行動など見せず、ただ働いているだけだった」


 思い出すようにフッと笑ったあと、次に真剣な顔を向ける。


「本当の目的はなんだったんだ?」


 ゼロニスにはすべて見透かされているみたいだ。

 こうなったらすべて白状しよう。


「お金を貯めていたのです」


 ゼロニスの目を真っすぐに見つめた。


「事情があってメイデス家に帰るわけにいかないのです。私がロンバルディのお屋敷から出されたら、帰る場所がありません。だからこそトバルの街で働き、居場所を見つけたいと思っていました。その軍資金を稼いでいました」


 ゼロニスに正直に告白すると、彼は小さくため息をついた。


「では、ずっとここにいるといい」


 足を組んで静かに言い放ったゼロニスに、目を見開いた。


「ロンバルディのお屋敷で雇っていただけるのですか!?」


 願ってもない申し出に私は身を乗り出す。


 今までと同じに働けるのなら、衣食住には困らないし、なによりメイデス家が手出しできない。 

 こんな好条件な働き口は他にはない。私は彼に感謝の気持ちを持った。


 ありがとう、暴君なんて思っててごめんなさい。


 ゼロニスは目をパチパチと瞬かせると、呆れたようにため息をつく。

 次に自身のこめかみ部分を指さし、トントンと叩いた。


「お前は頭がおかしい」


 ……はい⁉

 大きすぎる態度に頬がヒクヒクと引きつったが、ゼロニスにジロリとにらまれた。


 苦笑いでごまかしているとゼロニスはため息をついた。


「婚約者としてなら、おいてやる」

「え」

「聞こえなかったか? 婚約者としておいてやると言ったんだ」


 今なんて言いました?


 彼の表情は決して冗談を言っているようには見えなかった。

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