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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第四章 自立を目指して

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 劇はクライマックスへと向かっている。


「ロザリー、好きだ。君は僕のすべてだ‼」

「ハイザック、私もあなたが好き。あなた以外、考えれない‼」


 強く抱きしめ合う二人。


 観客たちは感動して涙を拭いている者もいる。もちろん、セリーヌも例外ではない。泣きすぎでしょ、と心配になるぐらいハンカチを目に当てている。


 だが私は日に何度も聞いている台詞なので、特になんの感情も浮かばなかった。

 盛り上がり絶好調な二人の脇で、ベンチに座っている。


 ゼロニスは? 彼はどうだろう?


 前に劇なんて、興味ないと言っていた。特に恋愛の劇は感動しないと言っていたが、彼の反応が気になった。

 セリーヌとの距離が近づいたことで、少しは気持ちが理解できるようになったのかしら。


 どうしても気になってしまい、うつむいてた顔をそっと上げる。 

 不意に、ゼロニスが私の方に視線を投げた。


 頬杖をついていた手から顔を少し上げ、目を見開いたように見えた。


 心臓がドクッと音を出した。


 もしかして私だって気づかれた!? いや、この距離だし、大丈夫でしょ。


 そう思いつつも気になってしまい、ゼロニスに視線をチラリと向ける。


 彼は腕を組み、目を細めてしかめっ面で真正面を向いている。


 ヒッ、そんな顔で見る劇じゃありませんから。これは恋愛よ。


 やがて、主役の二人がパッとスポットライトを浴びる。私も一瞬だけ照らされてまぶしくて目を細める。

 抱き合う主役に、皆の視線が注がれている。


 ん?


 見せ場だというのにゼロニスがスッと立ち上がる。


 ちょっ、ここが一番いい所だというのに!!


 あろうことか手すりにつかまりながら、ロイヤルボックス席の階段を使い、下におりてくる。


 どこに行く気だ、どこに。お腹でも痛くなったか。


 階段を下りると、そのまま真っすぐに舞台を目指して歩いてくる。


 ちょっ、上演中ですから。座って、座って。


 周囲の人々もゼロニスに気づき、驚いている。だが、彼は人々の視線もどこ吹く風だ。

 段差のある舞台に足をかけ、難なく舞台へ上がる。


 不審人物……!!


 だが警備の人間も舞台の関係者たちも、ロイヤルボックス席の貴賓とあって、誰も彼を咎める者はいない。


 舞台に上がったゼロニスは、真っすぐに歩いてきた。


 ――私目指して。


 一歩、一歩、真顔で近づいてくるゼロニス。

 えっ、もしかしてここにきて公開断罪される? 

 全身が硬直している私の前にゼロニスは立つ。


 見下ろされている彼から威圧感がビシバシだ。主役二人も演技を止め、ゼロニスに見入っている。


 ゼロニスは床に膝をつき、私と視線を合わせる。肩が震え、ビクッとした。


「こんなところにいたのか」


 ゼロニスはスッと目を細めた。


 えっ、いましたけど!! しかも演技中ですけど!!


 その、自分が気になったら周囲の状況もお構いなしで即行動に移すの、やめてもらえませんか。


 ゼロニスはスッと立ち上がると、いきなり私の腕を引っ張り、立ち上がらせた。


「きゃっ」


 驚いてつんのめり、倒れそうになったので、ゼロニスにしがみついてしまった。


 私ったら、なんてことを……!


「戻ってこい。お前の居場所はここだ」


 えっ……。

 心臓がドクンと音を立てた。


 いつの間にか主役二人ではなく、スポットライトを浴びているのは私たち。

 ゼロニスは口の端を上げ、クスリと微笑む。


「ラリエット・メイデス」


 どうしてその名前を!? 

 なぜ、いつから気づいていたの?

 ハッとして彼を見上げる。


「どうして……?」


 ゼロニスは言葉にならない私の右手を取ると、手の甲に口づけを落とした。

 混乱する私にゼロニスは優しく微笑み、上着からなにかを取り出した。


「ほら」


 私に受け取るように顎を指す。それは手のひらに収まるネイビーのジュエリーケースだった。

 開けるように視線でうながされたので、恐る恐る指示に従う。

 パカッとフタを開けると、中は水色の宝石がついた指輪だった。


「無くさないよう指輪にした。お前はそそっかしいから」


 ジュエリーケースに鎮座する大きな宝石に、目を見開く。

 これほどの大きな宝石は見たことがない。


「なぜ私に……」


 こんな贈り物をしてくれるのですか?

 言いかけた時、ゼロニスが遮った。


「約束しただろう」


 まさか、街に来た時、宝石が欲しいと言ったことを覚えていたの? 半分冗談、でも本当にいただけたらラッキーぐらいに思っていて、私も忘れていたのに。


「俺は拳で一万回など、くらいたくないからな」


 フッと微笑んだ。


「なぜ――」


 ここにいるの? 私を迎えにきたの? それならどうして?

 いろいろな疑問を頭の中がグルグルと浮かぶか、言葉に出ない。


「お前がいなくなったら、誰が紅茶を淹れるんだ」


 ああ、そうですか。気まぐれなことよ。

 ちょっと感動したけど損をした。顔がスンッと無になった。


「お前のその、虫けらを見るような目つきがたまらないな」


 態度に出ていたのがばれていたらしい。

 ゼロニスは私の顔をのぞきこむ。


「――行くぞ」

「へっ?」


 ゼロニスはそう言うとスッと腰を折り、私の膝裏に手を入れて抱えた。


「えっ、ちょっ、待っ……」


 いきなり抱えられ、慌てる。


「騒ぐな。つかまっていろ。落とすぞ」


 彼なら本当にやりそうな気がする。


 私はピタッと大人しくなった。

 まだ劇の途中、と言い出しかけたが、ここまできたら、もうめちゃくちゃだ。

 この劇の収拾はどうつけるのだ。誰がするのか。

 だが、考えても仕方がない。


 私は考えることを放棄し、舞台から下りた。


 正確には連れ出された、ゼロニスによって。


 総支配人たちに怒られるかもしれない。覚悟を決めたが、ゼロニスがどうにか対処するだろう。


 彼のシトラスの香りに酔いそうだ。ゼロニスの腕に抱えられながら、ぎゅっと瞼を閉じた。


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