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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第四章 自立を目指して

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「愛しています、あなた以外は考えられません!!」

「ロザリー!! 君のその言葉を待っていた!!」


 そして愛し合う二人はヒッシと抱きしめ合った。


 ベンチに座り、盛り上がる二人を眺める。


 うん、ここからではよく見えるわ。ある意味、特等席だ。

 総支配人から直々にスカウトされ、意気込んで役になりきろうとした。


 そこで渡された台本を読み、驚愕した。


 台詞が一つもなかったからだ。


 それどころか、主役の二人が街中で再会し、愛を確かめ合っている最中、ベンチにただ座っているという町民役。

 モブ、これこそがモブだわ。モブの王道、町民その1。


「いや~、君を見た時、主役を邪魔しない顔だなぁ、と思ったんだよね。整ってはいるんだけどね」

「さすが総支配人、目のつけどころが違いますね。適役を連れてくるだなんて」


 失礼じゃないか、おい。


 総支配人と監督は私を前にして勝手に盛り上がっている。


 つまり私の顔は、一応整ってはいる部類だが、主役を喰うほど特別目立つわけでもない。

 だからこそ、町民役として雇われたのだ。


 化粧はごく薄く、パウダーをつけるぐらいで目立たないように施した。


 私の役割はバスケットを持ち、町民として買い物をしていたり、ベンチに座っていたり。

 特別ヒロインの親友だとかライバルというわけもなく、単純に通りすがりの役で名前はない。


 それでもまあ、住む場所を与えてくれて感謝している。もみもみ亭に比べたらはるかにマシな待遇だろう。

 もっとも、もみもみ亭に働きたいと申し出たとしても、向こうから断られた可能性もあるが。

 考え事をしながらベンチに座り、スポットライトを浴びる主役二人を静かに見つめていた。 


 なんだかんだと劇場で働いて二週間が過ぎた。


 モブ役も慣れたものだ。スポットライトを浴びる主役に皆が注目しているので、私のことは誰も見ていない。


 だがモブなりに、アドリブを利かせて楽しんでいた。普通に歩いているシーンでも、時にはスキップしてみたり、早足で通り過ぎてみたり。そんなことをしても誰からも注目されていないということは、私のアドリブに誰も気づいていないということ。


 こんなことでも演じている気分になって、それなりに楽しんでいた。

 それにこの舞台からは観客たちの顔が良く見えた。


 驚いた顔や笑った顔。最後の主役二人が結ばれるシーンは涙している人もいる。

 皆が夢中になっている姿を目の前で見て、ああ、劇って人の心を癒すことができるのだと改めて感心した。


 今上演しているのは、借金のため、親の決めた婚約者と結婚されられそうになるヒロイン。だが、彼女には一途に思っているヒーローがいた。親と自分の気持ちに挟まれて悩むヒロインの葛藤などが描かれている。


 ありがちなストーリーかもしれないが、多くの女性たちの心をつかみ、連日満員御礼。

 私は日に何度も舞台に立っている。一言も発しないけれど。


 それにここからは観客席が良く見える。


 その中でもひときわ豪華なのはロイヤルボックス席だ。この劇場の中で一番のビップ席。専用の階段もあり、すぐ下に降りることもできる。主役たちは劇の終わりに、ロイヤルボックス席の下に挨拶にいく。そうするとロイヤルボックス席の貴賓たちは下に降り、主役たちと触れ合えるようになっている。


 貴族の中でもさらに身分の高い人達しか座れない場所だ。

 まさに超超ビップ席。私が自腹でチケットを買おうと思ったら、何十年かかるのかしら。


 でも世の中には簡単に買える人もいるんだよなぁ。

 今日のロイヤルボックス席に座る金持ちは、どんな方だろう。


 ふと興味がわき、視線を向けた。

 視界に飛び込んできた人物に目を見開いた。


 あれは――ゼロニスだ。


 気づいた瞬間、目を見開いた。


 どうしてここにいるのだろう。以前、劇なんて興味ないと言っていたはず。


 ゼロニスは頬杖をつき、舞台を眺めてはいるが、特に興味があるようには見えない。むしろ退屈そうな顔に見えるのは気のせいか。


 いったい、誰と来たのだろう。


 あっ……セリーヌ。 


 ロイヤルボックス席、ゼロニスの隣に座っていたのはセリーヌだった。

 彼女のほうは熱心に劇に見入っている。

 

 二人で一緒に来たのね。セリーヌはお芝居が大好きだと言っていた。


 私が姿を消したこの二週間で、二人の間に進展があったということかしら。

 お似合いの二人だ。もしかして私がいなくなったことで、二人の距離が近づくなにかがあったのだろう。


 やはり主役の二人は結ばれる運命にあるのだ。


 そう思うと同時に、なぜか胸がチクンと痛んだ。だが気のせいだと自分に言い聞かせた。


 私はゼロニスに出て行けと言われた手前、どうしても会いにくい。もっとも会ったとしても、フンッと鼻であしらわれておしまいな気がする。それか、まるでゴミでも見るような眼差しを向けられるか。


 ゼロニスは一度切り捨てた人間は徹底的に排除する。小説ではそうだったから。


 だからこそ、私は気づかれたくはない。スポットライトを浴びている主役がすぐそこにいるので、私に気づかないと思うが、気まずさからそっと下を向いた。

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