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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第四章 自立を目指して

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 こんな上手い話ってある?


「じゃあ、準備ができたら、表から入って受付で私の名前を言ってくれ。君の名前はええと――」

「ラリーです!!」

「ラリーかい。覚えておくよ」


 紳士は優しく微笑む。


「今日のうちに部屋を準備しておくから、明日の午前にたずねてくれ」

「わかりました!!」


 私は元気よく返事をし、総支配人と笑顔で別れた。


 こんなにいい話ってある? それも裏方じゃなく劇に出演して欲しいだなんて……

 まさかの演劇デビュー? 主演とか演じてしまう? 


 総支配人が見つけ出した宝石の原石、なんてキャッチコピーがつくのかしら?


 どうしよう、看板女優になってしまったら。あまり有名になってしまったら、メイデス家が聞きつけてくるかもしれない。……それは困るわね。まあ、その時はその時かしら。


 歌唱力も必要になるかも。日頃から練習しておけば良かったわ。


 私は期待に胸を膨らませる。

 その後は街を散策し、黒猫亭に戻ったのはもう日が暮れかけていた。


「本当に良かったよ、まさか仕事がすぐに見つかるなんて」


 宿のおかみさんはまるで自分のことのように喜んでくれた。


「心配だったんだよ、わが子と同じぐらいの年齢の子が仕事を探してるだなんて。でも本当、見つかって良かったよ」

「短い間ですが、お世話になりました。落ち着いたら遊びにきます」


 同じ街に住んでいるのだもの。会おうと思えば、いつでも会えるはずだ。


「また来ておくれよ」

「はい」


 そうして人の良い黒猫亭のおかみさんと笑顔で別れた。

 

 トランクを引きずり、ついに劇場までやって来た。


 不安がないわけじゃないけど、期待の方が大きい。大丈夫、上手くやっていけるはずよ。今までだって、どうにかなっていたじゃない、私には強運がついている。


 自分自身に暗示をかける。スッと息を吸い込み、入り口から劇場に入る。受付には、昨日いた親切な女性はいなかった。代わりに別の方が対応していた。

 受付で名前を言うと、すぐに一室に案内された。


「話は聞いております。ついてきてください」


 劇場の裏口みたいなところに通され、部屋がずらりと並んでいる。


「ここがあなたの部屋になります。まず荷物を置いてください」


 女性が扉を開くと、簡素なベッドと小さなテーブル、それと椅子に備え付けのクローゼット。黒猫亭よりも少し狭いけれど、一人ならこれで十分に思えた。


「あと、総支配人から話があるそうだから、ついてきてください」


 私は緊張しながら、総支配人が待つ部屋へと向かう。


 女性が扉をノックすると中からくぐもった声が聞こえた。


「さあ、中で総支配人がお待ちよ」


 女性はこっそりと私の耳元で小さな声でささやいた。


 ここからは私一人だ。ゴクリと喉をならし、扉を開いた。

 中には総支配人ともう一人、四十代に見える男性がいた。


「やあ、よく来てくれたね。まずは座って欲しい」


 総支配人は私にソファを勧めてくれた。


「彼はこの劇場で行われる劇のとりまとめ役をしている」


 隣に座る男性を紹介してくれた。なるほど、監督のような方かしら。


「ラリーと申します」


 深々と頭を下げた。


「総支配人、彼女が――」

「ああ、そうだ。彼女にぴったりだろう」


 監督はまじまじと私を見つめた。


「なるほど。確かに適役かもしれないですな。総支配人はどこで見つけてきたのですか」

「なに、劇場の裏口で見かけて声をかけたのだよ」

「さすが、お目が高い」 

 

 二人はフォフォフォと笑う。

 口をつぐんでいた私に総支配人が向き合った。


「君には舞台に出てもらう。それも、午後の舞台からだ」


 えっ⁉

 午後って今日の? もう時間がせまっているじゃない。


 でもどうしよう、台本だって渡されていないのに、私にできるのかしら。


「――わかりました」


 今から必死で役と台詞を頭の中に叩き入れよう。これから集中して役に入り込むのだ。


 目指せ、人気舞台女優への第一歩。


 悪役令嬢に転生したら、有名舞台女優になりました、

 こんな小説ありそうじゃない? もう悪役令嬢とは言わせないわ。


 気合いを入れ、返事をした。

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